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まりん組・図書係 [小説関連]

プロフめがね2.jpg


このブログはたま~にしか更新しません。
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どこまでも遥香 [小説関連]

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「角川ツイッター小説」の企画に参加した物です。
優秀作品は書籍化されると言う事でしたが、ベスト30にまでは入ることが出来ました。
しばらくは「角川」ツイッター小説」のサイトで読むことが出来たんですが、企画終了と共にサイトもなくなりました。
それでこちらにアップしています。
原稿用紙にして142枚ありますので、そのつもりで読みはじめてください。

ツイッターで書かれた中編小説と言う感じでしょうか。
まあ、これをちゃんと書き直すとすればまだまだ書き足りないところもありますのできっと長編小説になると思います。
主人公は海野遙香、作者も海野遙香。
主人公がツイートしながら行動していくそのツイートがそのままお話になって行くという趣向です。
それではどうぞ。






どこまでも遥香





1 バス停から



昼休みになって、お弁当を忘れてる事に気がついた。

なんて書くと、作ったけれど持って来るのを忘れたみたいだね。
本当はめんどくさくて、最初から作る気なかったんだよね、今朝は。
正確に言うとこうなる。
お弁当を作るのは今日はやめて、外に食べに出ようと思っていたんだけれど、その事をお昼休みになるまで忘れてしまっていた。
そんな感じね。

それで今、会社のビルを出て、少し歩いた所にあるイタリアンのお店に来たんだ。
うーん、なんかとても雰囲気のいいお店で、会社の制服が場違いな感じ。
それでもめげず、カルボナーラを注文した。
毎日外食なら定食屋さんでしょうけど、たまにだとこう言うのもいいね。

で、このカルボナーラが美味しい!

会社への帰り道。
食べ物でそこまでハッピーになるのかよ~って言うぐらいハッピーだった。
思いのほか美味しかったな。

こんな感じに自分の行動をいちいちツイートするのが癖になっちゃってる。
勤めている会社が小さな会社で、私の課には女子が私だけ。
それでお昼も一人っきりでさ。
それでこういう癖がついちゃったのかなあ。
ツイッターのフォロワーさんも少ないからほんと独り言みたいだね。

ハミングしながらなんとなく歩道の上のベンチに目が行った。
バス停に置かれた二つのベンチ。
バス停の標識のそばに鉄パイプとテントで出来た簡単な屋根があって、その下に小さな可愛いベンチが置かれている。
車で道路を走っている時、これに座ってバスを待っている人をよく見かけことがある。

その時、気がついた。
わたしって、バスの停留所のベンチに座った事がないと言うことに。
ベンチのない停留所で立ったまま、何回かはバスを待ったことはある。

でもでも、ベンチにゆったり座ってバスを待っていた自分は記憶の中にないんだ。
それはとても思いがけない事だった。
今まで生きてきた人生で一度もなかったなんて。

そう思うと、どうしても座ってみたくなった。
どうしても座らなくちゃいけないような気さえして来てバスを待つわけでもなく座っていた。
歩きながら、カルボナーラを食べながら、そしてこうやってバス停のベンチに座りながら、ツイッターでつぶやいている。

おかしいね。
フォロワーさんも少ししかいないのに。
たぶん誰も見てくれてなんかいないのに。
ベンチに座っているわたしは、なんだかわくわくしている。
まるで子供みたいで、自分で自分がおかしかった。
バスに乗ってどこかへ行こうとしてるわけでもないのにさ。
なんか心がふわぁっと自由になったような気がして。
バスが近づいて来る。
そしてどうしようかと思っている間に目の前にバスは停まり、ドアが開いた。
わたしのほかにバスを待っている人はいない。
バスから降りて来る人もいない。

このバスはわたしのために停まったんだ。
ちょっと。
わたしって何考えてるんだろ?
勝手に体が動いてさ、今はバスの座席に座ってる。

低いエンジン音が大きくなってバスはスピードを上げる。
窓の外をわたしの会社のあるビルが通り過ぎ、見る見る小さくなる。
時計を見ると、お昼休みはあと5分。
すぐにバスを降りて引き返しても遅れちゃうよね。

でも会社に帰ろうと言う気持ちがぜんぜん起きない。
それを不思議に思っている自分と、当たり前だと思っている自分がいた。
バス停を5つほど過ぎた頃に、あまりお金を持っていない事に気がついた。
ついでに銀行に行こうと、持って出たバッグは会社ので、通帳や振り込みカードだけで現金は入ってない。

さっきの昼食のお釣りプラスアルファぐらい。
こまかいお金を数えて、バスの料金表と照らし合わせるとなんとか終点まで行けそうで安心した。
終点とは言ってもあとバス停4つだけど。

バスを降りるとそこはJRの駅前だ。
会社に帰るにしても、帰らないにしても……
どちらにしてもお金はいるわけだ。
バッグには会社の預金通帳が入っている。
バス代ぐらいならあとから断って返せばいいよね。
そう思って銀行のATMに向かっていた。
千円、と思っていたのに十万円降ろしてしまった。
じゅ、十万円?
自分でもちょっとびっくりした(笑)←笑ってる場合か。
そのお金をバッグに入れるとなんか心がゆったりとした。
なるほどね。
人間て、お金があるのとないのとでこんなに気持が変わるんだと変に感心した。

こんなことまでツイートして大丈夫なのか自分。
そんな疑問をいだきながらもツイートするのを止めることが出来ない。
勝手に手が動いちゃうんだもんね。

駅前を歩いてる。
旅行会社のポスターが目に付く。
次々美しい風景写真を見ていると、その風景の中にいる自分を想像しちゃう。

気がつくと駅の自動券売機の前に立っていた。
いくらなんでもそれはないと思って駅を出た。
バスには乗らずに少し歩こうと思った。
駅前には色んなお店が並んでる。
ふらりと一軒のブティックに入ってみた。
「いらっしゃいませ」と声をかけられると、もうお買い物モードだ。
今着ている事務服がなんか重かったんだ。

ピンクの肩がレースのプルオーバー。
薄いブルーのデニムのキュロット。
白いスプリングコート。バイカラーのサンダル。

それだけ買うとお店で着替えさせてもらい、紙袋に入れた事務服は道傍にあるゴミ箱に放り込む。
バッグはいい物が欲しくなって、もう一度ATMでお金を降ろし、クロエのショルダーバッグを買った。



2 快速電車で



わたしはもうすっかりお出かけ気分で自動券売機の吐き出す切符を手にしていた。
一度も聞いたことのない駅の名前。

快速電車の座席に座っている。
窓の外を気持ちのいい風景が飛び過ぎて行く。

いつの間にか方向感覚が反転して、西へ向かっているのか東へ向かっているのかさえあやふやになっていた。

電車の繰り返される心地よいリズム。
毎朝の満員電車に乗っているのとは大きな違いだ。

ついこの間のことなのに就活で走り回っていたのが遠い昔のようだった。
リクルートスーツに身を包み、いったい何社を受けたのかさえ思い出せない。
毎日毎日必死だった。
あれほどの大変な思いをしてやっと入れた今の会社だったのに、わたしはなんで自分からそれを切り捨てようとしているんだろ?
その事がなんだかとても…

とても、何だと言うの?
とても理解不能?
とても信じられない?
とても滑稽?
とても愚かな行為?

いやいや、そんなんじゃない。
とてもそれは自然な事のような気がしている。

いつの間にか私は眠ってしまっていた。
何時間眠ったのだろう。
目を覚ますとまだ窓の外は明るかった。
走り過ぎて行く世界はなんだか不思議な色に見えた。
寝起きだから?

そしてまた電車の走っている方向が反転している様に感じた。
そもそも、最初にどっちに向かって走りだしたんだろ?この電車は。
そう考えていると、また反転が起きた。

電車はわたしにとっては東か西か、どちらかに走るだけの物だった。
だから時々頭の中で進行方向の反転が起きても東か西かだけだった。
それが今は南北で起きている。

面白い。

そしてこうやって、電車の音を聞きながら目を閉じてみると、銀河鉄道みたいに上を目指しているのか、下を目指しているのかさえあやふやになる。

目を開ける。
電車は大きな円を描いて同じ所を回っている様な気もした。

この電車が駅に停まったのはいつの事だろう?
ずっと何処にも止まらずに走り続けている気さえしていた。

空の色は少し夕暮れっぽくて、でも日が暮れる様子もなく長い時間が過ぎた様にも思った。

なんか変。

この電車が駅に停まったのはいつの事だろう?
ずっと何処にも止まらずに走り続けている気さえしていた。

空の色は少し夕暮れっぽくて、でも日が暮れる様子もなく長い時間が…

あれ?
さっき同じ文章をツイートしたっけ?

すごい風圧を感じて、電車はトンネルに入った。
一瞬で窓の外は真っ暗。

長い長いトンネルだ。

なかなか終わらない。
電車の走る音がトンネルに反響してうるさい。




まだトンネルの中だ。




まだまだ、トンネル。




もうこのトンネル終わらないんじゃないかと思い始めた時に電車はブレーキをかけた。
みるみるスピードが落ちた。

トンネルを出てすぐぐらいに駅があるのかなと思った。
でも電車はトンネルの中で停まってしまったんだ。
何のアナウンスもない。



3 とげクマと一緒



気がつくと薄暗い車両の中には私しか乗っていない。
思い出すと最初から一人だったような気もした。

わたしが乗っていたのは電車の最後尾。
前の方に歩いて行ってみることにした。

一両、また一両と電車の中を歩いて行く。
でも一人も乗客はいない。

まさか、いくらなんでもわたしが乗った時にはたくさん乗っていたはずだ。
いくらかは途中の駅で降りたとしても、一人も残らないなんて。

そう思いながら歩いて行くと、何両目かの座席の背もたれの向こうに飛び出した緑色のものが見えた。
そういう色の帽子をかぶった人が座っている。
ふつうはそう考えるよね。

でもちがった。
それはなんと、緑色のクマだった。
それも間違いなく、正真正銘のぬいぐるみのクマ。

わたしはそれを横目で見ながら通り過ぎ、見覚えがあるのに気がついて振り返った。

「とげクマ~!」
わたしは自分でもびっくりするぐらい大声を上げていた。
それはわたしが学生時代に考えたキャラクターだった。
結構気に入っていて、ノートのすみっこによく描いていた。

緑色をしていて、体中にぶっとい「とげ」を生やしている。
そして誰にでもとげとげしい事を言う(笑)
サングラスをかけているけれど、それを外すと意外と可愛い。
そう言うキャラクターね。
わたしはそのとげクマ君に、自分が言いたくても言えない事をしゃべらせてストレス解消していた感じ。

これがとげクマだ〜
とげクマ 腰に手2.jpg


でも、でも、問題はそのとげクマが何でここにいるのかって事。
なんで、ゆうゆうと、こっちを見て座ってるのかって事。

わたしはイラストで描いていただけで、ぬいぐるみを作った覚えもない。
しかもでかい。
もしも立ったら、わたしと同じぐらい身長があるようだ。

「等身大だもんね」
そう言いながらとげクマはのっそりと立ち上がった。
わたしは思わず後ずさった。

「あくまで、あんたの描いたイラストから生れたんだからなオレ」
ぬいぐるみのくせに腰に手を当てて偉そうだ。

って、それも私の作った設定だっけ?
「そう言う事だな」

そうそう、思い出した。
このとげクマとわたしを並べて描いたこともあった。
そう言えばわたしと同じ身長だったような。

そんなことより、何でそのとげクマがこんな所にいるわけ?
「まあ、なんかの偶然だな」
そうとげクマは言った。
「あんたが何でここにいるのかも、同じような偶然じゃね?」
そう言いながら電車の通路を歩き出した。
「どこ行くのよ?」
「電車が何で停まったのかって思ってな」
わたしたちは一緒に前へ歩いた。
先頭車両に来る。
運転席をのぞいても運転手はいない。

「不思議だ」
とげクマは腕組みをして、右手であごをなでながら言った。
「あんたが動いてしゃべってる方がずっと不思議だわ」
「お、言うね。とげのあるお言葉」
とげクマは全身の黒いとげをピンと立てて反応した。
「まあ、遥香は俺の分身だから言葉にとげがあるのは当たり前かな?」
なんてことを言う。
「あ、あんたがわたしの分身なの!それに呼び捨てかよ!」
とげクマは非常用のボタンを押して電車のドアを開けた。
ああー!一度やってみたかったのに。
「プシュ~」
と音を立ててうっすらと車内灯で照らされた後ろの車両のドアが一斉に開いた。
とげクマはドアから飛び降りた。
「遥香。来てみろ」
またも呼び捨てだ。
変える気持ちはないらしい。
一度手すりにぶら下がって、後ろ向きに飛び降りた。
足元は砂利だと思っていたのに、やわらかかった。
よく見ると、芝生のような短い草が生えている。
とげクマは電車の前に立って上を見上げていた。
私も横に並んで見上げて息をのんだ。
ここはずっとトンネルの中だと思っていたのだけれどそこは満天の星空だったんだ。
とげクマは言った。
「百点満点の満天の星ってね」
わたしはとげクマのダジャレを無視して言った。
「ほんとうに星空?洞窟に棲んでる土ホタルっていうやつじゃない?」
そうじゃないのは判っていた。
闇に目が慣れてくると、地面はずっと先まで草原が続いていたからだ。
トンネルの壁はどこにもない。
電車の線路は車輪が乗っているところまではあって、そこでプッツンと切れたようになくなっている。

気が付くと、とげクマは20メートルほど向こうを歩いていて、闇に飲まれようとしていた。
わたしはあわててとげクマを追いかけた。
こんな何処だかわからない所に、それも真夜中、一人にされてたまるもんか。
わたしはいつの間にか立ち止っていた、とげクマの背中にぶち当たった。
ぼふっ!
そんな音がした。
「ふーむ。見渡す限りどこまでも草原だな」
「あんた、サングラスかけててよく見渡せるわね」
「見てみろ」

とげクマのぶっとい指の向こう、地平線あたりが少し明るくなっていた。

「夜明けが近そうね」
「明るくなるまで電車で待っていようか」
そう言うと、とげクマはのそのそと戻って行く。

そして電車まで着いた時に変な事を言った。
「あれ?この電車の下で誰かが死んでるぞ。変な服を着たばばあみたいだぜ」
そんな~
おそるおそる近づいて行くと、黒い服を着たおばあさんが電車の下で横になっていた。
顔を見るとまるで……

これ以上変な設定は出てこないでほしいのに、その顔は、その服は、まるで魔法使いのおばあさんだった。
見る限り五体満足で、血も出ていないようなので車輪に轢かれたのではなくて、電車の前側にぶつかったのかもしれない。

「前進する電車に、全身打撲ってな感じ?」
とげクマのダジャレで気持ちがなごんでいる自分を発見。

そうこうするうちに夜は明け、電車の下側にも光が差し込んだ。
真っ黒の服に真っ黒の帽子をかぶって死んでいるその魔女は手にはステッキらしいものをしっかり握っている。
見ると履いている靴が先のとんがった赤い靴だった。
「靴だけでもおしゃれ、ってか」
とげクマの本領発揮のとげのあるコメント。

それではここで、むかし描いたとげクマのイラストをもう一つ。
うんちにも顔があったりして。

とげクマさんぽ.jpg






4 そして幕が上がる



明るくなった草原を見渡すと、今まで全くなかったはずの建物があちこちに建っているのが見えた。
それはまるで童話に出てくるような風景だった。
レンガ造りで、屋根は色とりどりのとんがり屋根。
よく見ると、草原だとばかり思っていたあたりの風景はたくさんの木々が生い茂り、地平線は見えなくなっている。
なんか自然豊かな村が突然現れたってかっこうね。
その家々の窓には明かりはなく住民がいたとしてもまだ眠っているに違いない。
そこへ変なものが現れた。
うすいピンク色の透明な球体。
直径が3メートルぐらい。
それがコロコロ、時にはボヨヨンと言う感じで転がって来る。
その球体の中にはカラフルな裾の広がった服を着た一人の女の人がいた。
ビクトリア朝の女性の服を思い切り派手にした感じ。
そのスカートにはキラキラ光る宝石(?)がぐるりと配置され、ゆらゆらゆている。
帽子はつばの思いっきり広い物で、そのつばにもぐるりと宝石(?)が吊り下げられていた。
手に持っているのは頭に水晶玉のついた杖だ。
そんな女の人が中で一生懸命に歩くにつれ、球体は前進する。
凸凹があればボヨヨ~ン。
球体の中の女の人はどんどん近づいてきて、うまく止まれずに電車にぶつかって弾き返される。
中で転んで、ばつの悪そうな表情で私たちを見た。
それでもめげずに起き上がり、表情を取り繕うと私たちに声をかけた。
「ようこそ、私たちの国へ」
球体の中なので声がくぐもっている。
「どうも~!ここは何と言うところなんですか!?」
向こうも聞こえにくいだろうと思って大声で言った。
「国の名前は……」
女の人の目は泳いでいる。
「私の名前は北の魔女のグリンダです」
「国の名前を聞いてるのに?」
とげクマはひそひそ声で言った。
「そこに死んでいるのは、悪い東の魔女です」
グリンダ、東の魔女、赤い靴?
どこかで聞いたことがあるなと思った。
いつになく高速で頭が回転していた。
カラカラカラ、ピ~ン。

「ひょっとしてそれって『オズの魔法使い』じゃね?小さいころ読んだきりでうろ覚えだけれど、たぶんそうよ」
「貴方の乗り物が東の魔女を殺してくれました」
と言いながらグリンダは電車を杖で指した。
「この通りこの村の住人達はみんな喜んでいます」
「え?みんなって?」
グリンダの後ろを見ると、大勢の人々がぞろぞろやってくるところだった。
「遅いじゃないの!」
グリンダは振り返ってその人たちに毒づいた。
私たちの方に向き直ると満面の笑みだ。
グリンダの後ろで人々はいくつかの輪になって踊りだした。
「この通りこの村の住人達はみんな喜んでいます」
同じことを繰り返した。
「あなたはどちらからいらっしゃいました?」
わたしは答えるのに詰まってしまった。
「東京」っていえばいいのか「日本」と言えばいいのか、「千代田区神田」と言えばいいのか、それとも「地球」から来ましたとでも?
でも、まあ、言葉は通じてることだし。
「会社は神田須田町にあるんですけどね」
「カンザスですって?それはまた異国の地からおいでになったのですね」

をい!それを言うとますますオズの魔法使いになっちゃうじゃん。
「カンザスじゃなくて!カンダスガチョウですから!」
わたしは球体に口を着けるようにして言った。

気が付くと村の住民たちは私たちのやり取りをじっと見守っていた。
グリンダが振り返ると、みんなまた一斉に踊りだす。

やがて太陽が木々の上までのぼりあたりを温かい光で満たした。
光が電車の下の東の魔女の体に当ると、黒い服と杖、赤い靴を残して溶けてしまった。
そこへほうきに乗って西の魔女が現れた。
「よくも姉を殺したな!」

「オズの魔法使い」小さい頃に読んだだけなんだけど、その辺の展開はけっこう覚えているのね。
西の魔女が、姉の東の魔女の赤い靴を取り返そうとして、グリンダの魔力で追い返されてしまう。
その通りの場面が目の前で起きた。
「さ、ドロシー。その靴はあなたのものですよ」
と、グリンダは言った。
わたし、名乗ってないじゃん。
「わ、わたしはドロシーじゃありません!」
グリンダに大声で言った。
きょとんとしている。
「わたしは、はるか!」
わたしはわたしをドロシーだなんて認めると、このわけのわからない「オズの魔法使い」の世界から抜け出せなくなっちゃうような気がしたの。
そこは断固として譲るわけに行かなかった。
グリンダは後ろにいるとげクマを見た。
「貴女の連れてらっしゃるその犬は何と言うお名前?」
わたしはとげクマの顔を見た。
「と……」
とげクマの耳がピクンと動いた。
「トトです」
とげクマは派手にずっこけた。
いいねー、絶妙のタイミング。
「グリンダさん、わたしは元いた所に帰りたいんですけど?」
「カンザスですね」
「ちゃうちゃう、神田須田町」
「私も帰った方がいいと思いますよ、西の魔女があなたに復讐をするかもしれませんからね。でもそれには…」
「エメラルドシティーにすむ、オズの魔法使いの力を借りなければなりません」
わたしは小声で言った。
球体の中のグリンダには聞こえない。
「エメラルドシティーにすむ、オズの魔法使いの力を借りなければなりません」
グリンダは先に言われてしまったことに気が付かずに言った。

ふと、村の住民たちの後ろに目をやるとさっきまでなかったはずの黄色いレンガの敷き詰められた道があった。
その道が今まさにぱたぱたと伸びて行くのが見えた。
「あ、あの黄色いレンガの道の向こうにエメラルドシティーがあるんですね」
「まあ、よく知ってらっしゃること」
グリンダは不満げだ。
「この東の魔女の靴を履いて行きなさい。きっと役に立つでしょう」
わたしは電車の下のその赤い靴を持ち上げた。
おそるおそる匂いを嗅いでみた。
だって、魔女が溶けちゃったわけでしょ。
なんか汚いものが残っているかもしれないし。

すぐに履いてみる勇気はなかったのでバッグに入れた。
まあ、まあ、靴の中は汚れてはいなかった。

「それではお気をつけて行ってらっしゃいな」
グリンダはそう言うとまた球体の中で歩き始めた。
最初はゆっくり、だんだん早く球体は回転する。
木にぶつかって跳ね返される。
その拍子にグリンダは球体の中で転ぶ。
起き上がり、歩き出し、球体は転がる。
地面の凸凹に来るとボヨヨヨ~ンと跳ねる
そんな事を繰り返しながらやっと視界から見えなくなった。

村の住人みんながわたしたちを見ていた。
黄色いレンガの道に行くには、村の住民達の前を通らないといけない。
普通の背丈の人たちだと思っていたのが、近づいて行くとずいぶんと背が低い。

「そういえばここは小人の村と言う設定だったわね『オズの魔法使い』では」
頭身は普通の大人だけれど、そのまま小さくしたような村の住人達。
無理やり小人を表現してる。
そんな感じだった。
「表現」?
いったい誰が?
これは夢だと思いたかった。
でもこの現実感はどうしようもなく現実だった。
村の住人達はわたしが黄色いレンガの道を歩き出すとみんな並んで手を振ってくれた。

「ありがとうございました」
「悪い魔法使いをやっつけてくれて、ありがとう」
「お気をつけて~」

みんな口々に声をかけてくれる。
それはそれで悪い気はしないので、わたしも振り返した。
「みなさん、お元気で~」
とげクマが黄色いレンガの道を先になって歩いた。
あっちを眺め、こっちの臭いを嗅ぎ、そう、まるで犬のトトみたいだ。
黄色いレンガの道を歩きながらわたしは突然思い出した。
「そうだ。マンチキンだ!」
とげクマが振り向く。
「なんだ?ケンタッキーのメニューか?」
「違うわよ。あの人たちがマンチキンと言って、あそこはマンチキンの国」
「今思い出したのか?」
「そだよ。たぶん小学2年ぐらいだったかな。初めて自分一人で読んだ本なんだよ『オズの魔法使い』って」
「さっきから考えてたんだ。あのグリンダって言う婆さん、なんでそれを知らなかったんだ?」
「そうなんだよね。なんか変なんだよね。いやいや、この状況その物がこの上なく変だけど、そこん所が微妙に変で、微妙なんだけどなんか重要な感じがして……」
レンガの道を歩く二人の足音だけが聞こえた。

「よくわからん」

「でもまあ、さっさと帰っちゃいましょうか?」
「そうだよな。先を急いで、オズの魔法使いとやらに会って……めんどくさいこった」

「それが大丈夫なの。わざわざエメラルドの都まで行かなくても」
「なんだべ?」
「お話ではドロシーはオズの気球に乗り遅れてちゃうのね。所が魔女の残した靴にお願いをしてカンザスに帰れたのよ」
「あ、それがさっきの赤い靴?」

「そうだよ!」
わたしはクロエのショルダーバッグから靴を取り出した。
バイカラーのサンダルを脱ぎ、その靴に履き替える。
「カンザスに帰りたいって唱えながら、靴のかかとを三回打ち鳴らすのよ」
「俺はどうなるんだ?」
「その時ドロシーはトトを抱いてたと思うわ」
「それじゃあ」
「え?」
わたしはとげクマを抱っこした。
ぬいぐるみのくせにこいつ、ずっしりと重かった。
しかも、とげがちくちくする。
「おい、早くやってくれ」
「タクシーみたいに言わないの!」
足が重さで震えた。

「かかかか…」
「おい、間違っても『カンザス』って言うんじゃないぞ」

「神田須田町に帰りたい!」
コツ!コツ!
かかとを鳴らすためにつま先で立っているので足がつる。

コツン!

一陣の風が吹いて落ち葉が二人の周りを舞った。
何も起こらなかった。
とげクマはわたしに抱かれ、わたしの首に手を回してじっとしている。
こうして見ると、とげクマの顔は異常に大きかった。
わたしの視線を完全にふさいでいる。

「それに重いんだよ!」
手を離すととげクマはレンガの道でバウンドして転がった。
「ひどいことするなあ。遥香。見ろとげが何本か曲がっちまったぞ」

「どうして?どうして?なんで帰れないのよ?ここが『オズの魔法使いの世界』なら帰れるはずよ」
わたしはがっかりしてその場に、へなへなと座り込んでしまった。
「このレンガの道を歩いてエメラルド・シティーまで行けって言うの?やだもう」
とげクマは腰に手を当てて言う。
「行くしかないよな気もするな。遥香」
その時、どこからともなく音が聞こえて来た。
音と言っても地響きみたいな物ではなく、なんとなくエネルギーがうごめいてるっぽい。
音にならない音はわたしたちを急かすように背後から前に押し出した。
物凄い圧力だった。
思わず私は立って前に歩いてつんのめった。
押されたのはとげクマも一緒で、彼は「ぼふっ」と音を立てて倒れた。

「な、何なの今のは?背中をどやされた!?」
「休んでないで早く行けって事じゃね?」
「なんでよ!?」
わたしは黄色いレンガの道を引き返し始めた。
「こうなったらどこにも行かない。あの電車に乗って待ってるわよ」
しかたなくとげクマも付いて来る。

その時またあの音にならない音がした。
回りの風景が波打って見えた。
その波がわたしたちまで届くと、ものすごい圧力で押され5メートルほど後ずさり、ひっくり返ってしまった。
「やっぱりな。何かの意思が働いてるのさ」
「何かってなによ?!」
「まだわがんね」
なぜかとげクマは東北弁だ。
「俺たちはトトとドロシーなんだよ、この世界では」
「それじゃどうしてもエメラルドの都へ行ってオズに会わなくちゃ帰れないって事?」
「そんな気がするな」
わたしはどこまでも続く黄色いレンガの道を見てため息をついた。
「それじゃあ行きましょうか?」
わたしは歩き出した。
切り替えは早い方。
「映画の『オズの魔法使い』に主題歌ってあったわよね?」
メロディーをハミングした。
「それは『星に願いを』だぜ。『ピノキオ』の主題歌だ」
「何でもいいわよ!♪~別れーるこーとはつらいけーど~♪」
「それは千昌夫の『星影のワルツ』じゃね?『オズの魔法使い』は『オーバーザレインボウ』だからね」
「英語の歌、歌えねーよ!」

なんかもう、やけくそだね。



5 やけくそで「オズの魔法使い」



まるで絵にかいたような美しい風景の中を緩やかな起伏で続いている黄色いレンガの道をしばらく歩き続けた。
先になって歩く、とげクマが立ち止まり私の方を振り返った。
「遥香の読んだ本ではこの後どういう展開だっけ?」
「かかしに出会うんだと思うわ。『オズの魔法使い』と言えば、かかしと、ブリキのきこりと、臆病ライオンだよ。あんた、よく知ってるじゃない?主題歌がどうとか」
「俺はストーリーは知らないぜ。音楽にしか興味ないし」
などと話しているうちにマンチキンたちの作っているトウモロコシ畑にさしかかり、そしてそこに当然のようにかかしが立っていたのに呆れるやら、げっそりするやら。
「いよいよ、わたしドロシーなのかよ」

「降ろしてくれ~」
かかしは私達を見つけるとそう叫んだ。

「はいはい、お決まりのセリフね」
とげクマが背中の棒を外してかかしを降ろしてやった。

かかしは言った。
「ありがとうございます。あなたはどなたですか?」
「わたしはド…」
あぶないあぶない、ドロシーと言っちゃう所だった。
「遥香と言うOLだけどさ、これから魔法使いのオズに会いに行くところ」

「おいらは犬のトトだワン!」
とげクマは素直に(かどうか判らないけど)トト役をこなしてる。

わたしが元いた場所に帰る方法を聞くためにエメラルドの都に行くのだと言うとかかしは空っぽの頭に脳味噌が欲しいと言うので一緒に行くと言う展開なんだけど、めんどくさいので、かかしにはしゃべらせず、すぐに歩き出した。
「一緒に行きましょ。あんたの空っぽの頭に脳味噌をもらえるかもよ」
かかしはちょっと傷付いたような表情をした。
とげクマが言った。
「今の言い方、とげだらけだぞ」
そこで気がついた。
あのかかしの表情、見た事ある。
同期入社の加橋くんだ。
なんか気が弱そうで、学校の成績は良かったみたいだけれど、仕事ではポカが多い。
合わなかったみたいで2か月前に退社したんだっけ。

わたしは振り返ってかかしの顔を見た。
「あんた、加橋君?」
かかしの目が泳いだ。
「な、何言ってるのさ。ぼくはかかしだよ」
あやしい。
この冷静さを装った裏に見えた動揺。
なんか隠してるっぽい。
まあ、いいわ。
あとで問い詰めて聞きだしちゃうからね。

やがて日が沈んだ。
日は沈んだけれど、空はまだ明るい。
こう言うのを薄暮って言うんだよね。
黄色いレンガの道は小さな森にさしかかった。
このままでは森の中で野宿しなくちゃいけないのかと覚悟し始めた時、丸太で作ったログハウスが見えた。
ログハウスというのはちょっと褒めすぎ。
そうだ、当然今度はブリキのきこりが出て来る番だから、これがきこり小屋と言うわけかな。



6 楽屋裏にて



わたしはそのドアをノックしてみた。
当然、誰もいないと思いながらね。
だって、ブリキのきこりは『オズの魔法使い』では外で仕事中に錆び付いて動けなくなっているはずだもん。

「どうぞ」
と言う声が中から聞こえてびっくりした。
わたし達が入って行くとそこは思ったより広く、大勢の人がいた。
長いテーブルが5つも並んでいて、たくさんのマンチキンの人たちが食事をしている。
左手に厨房とカウンターがあって、そこで料理を受け取るようだ。

かかしが先になって歩いて行く。
「さ、何でも好きなものを注文しなよ」
あまりの意外な展開に言葉を失っていた。
それでもお腹は空いているので、見本の写真を見ながら「白身魚のフライ定食」を注文した。

「いくら食べてもただだからね」
かかしはそう言いながら「焼き肉定食」を受け取った。
とげクマは果たして物を食べるのかと見ていると、単品の「サーモンのムニエル」と「ライス大盛り」を注文した。

「あんたさあ、クマだからサーモンは判るけど、そもそもぬいぐるみでしょ?」
そう言うと切り返して来た。
「俺はそもそもあんたの描いた絵で、ぬいぐるみと言うのは設定だけだろ?それがこうやって生きていると言う不思議に比べれば、俺が物を食べると言う事ぐらい不思議でもなんでもないんじゃね?」

まあ、そう言われればそうね。
テーブルに着いて空腹を満たし、お茶を飲みながらわたしはかかしに聞いた。
「ねえ、あなたって加橋君でしょ?同じ会社にいた」
頼りない返事が返って来る。
「さっきさあ、そう言われてなんとなくそんな気がしたんだけど」
「なによそれ?」
「記憶があいまいなんだよ。気がつくとこんな変な場所にいて、かかしの役をやらされてる」
「かかしの役?なんか、映画の配役みたいな言い方ね。大体ここはどういう所なの?」
「僕にもよく判らないんだ」
かかしの姿の加橋君は語った。

仕事でポカが続き、嫌気さした彼はある朝、通勤電車に乗ったものの、ふと途中で降りてしまう。
そして知らない駅の地下街をうろついていたらしい。
その地下街で下に向かう階段を見つけた。
明かりの点いてない狭い階段だった。
ふらふらとそれを降りて行くといつの間にか暗い深い森の中を歩いていた。
そして自分の服を見て驚く。
いつの間にか加橋君はタキシードを着ていたと言う。
池の水に映る自分の顔を見た。
自分はウサギだったんだ。

それから否応なく物語が始まり、自分は『不思議の国のアリス』の登場人物だと言う事が判った。
ストーリーに押し流され、そのままウサギとして行動した。

それが2カ月ほど前の事だと言う。

「それじゃあ、この世界はそういう場所なわけ?誰かれなく引っ張って来て物語を演じさせる。カメラがあるわけでもないから撮影しているふうでもないのに」

「どうやらそのようなんです」
マンチキンの男の人が立っていた。
背の高さは普通だ。
あのマンチキンの村にいた時は小さく見えていたのに。
他のテーブルにいる人たちも同じだった。

その人は椅子に座った。
「わたしはここに来て数年経ちます。それでうすうす判って来たのですがね」
「何かこの星全体を統べる、大きな意志の様な物があるのです。それを私達は『お話し婆さん』と仮に呼んでいます」

男の人が、色んな人の話を聞いて行くと、『お話婆さん』はあちこちから人間を呼び集めているようなんだ。
そして、この世界にやってきた人の記憶の中にある物語を元にして、そのストーリーを演じる舞台を創造し、実際に演じさせるのだと言う。

「それじゃあ、今のこの『オズの魔法使い』はわたしが覚えてるストーリーなわけ?」
マンチキン役の男の人はうなづいた。

「わたしの記憶が読み取られてるわけね。ちょっとキモイ」

役者たちによって、同じストーリーが何度か繰り返されるといつの間にか舞台はがらりと変わっていて、次のお話が始まる。
わたしの様に、来て間もない役者(?)は物語の登場人物になる事を拒む事が多い。
ストーリーと関係のない行動をする。

そんな時には『お話婆さん』のダメ出しが入ると言う。

「ああ、それがあれなのね」
音にならない音がして、あたりの景色が波打つほどのエネルギーが発生して、わたしをエメラルド・シティーに向けて付き飛ばしたあれ。

あれが『お話婆さん』のダメ出しだと言うんだ。

「あの程度ではまだまだ優しい方さ」
どうしても物語を拒絶すると、もっと恐ろしい力が働くと言う。
この世界からどこかわからない場所に飛ばされた人も何人もいるらしい。

「それじゃあ、わたし達はこのままずっと色んなお話を演じなきゃいけないの?」
「それがそうでもないらしいな。お話の結末が故郷に帰ると言うような物の場合、実際に帰る事が出来る事もあるようだ」

わたしはそれを聞いてほっとした。
『オズの魔法使い』では、ドロシーはちゃんとカンザスに帰れる。
「まあ、明日からまた主役を頑張るんだね」
男の人は言った。
「ここは食堂兼、宿泊所みたいなもんさ。至る所にあって、お話が休止している間に利用出来る」
「こんな場所を誰が作ったの?」
「そりゃあ『お話婆さん』さ」
「ここに連れて来られている人間や、人間以外の物は数えきれない程いる。皆、ここで働いているわけではない。役者として囲われているのさ。だから生活に必要な物は全て『お話婆さん』の提供って訳だ」

とてつもない話ね。

そのきこり小屋(食堂兼宿泊所)にはちゃんと眠る所もあった。
ひと部屋に二段ベッドがふたつある。
わたしととげクマが一つのベッドの上と下。
かかしが一人、下の段で眠る事にした。

横になってスマホを取り出す。
わたしは今まであった事を全部ツイッターでつぶやいてきた。
ずっと使いっぱなしね。
だのに電池はちっとも減らないのが不思議だった。

スマホの電池残量表示にはコンセントのマークが出ている。
と言う事は充電中ね。
充電器を差してもいないのに充電中なんて。
これも『お話婆さん』の力なのかな?
この星中に張り巡らされたネットワークでスマホも充電されちゃうとか?
きっとそうなんだ。

なんて事を思いながらツイート。
わたしのツイートは、ちゃんとツイッターに送信で出来てるんだろうか?
出来てるわよね。
こうやってちゃんとTLに表示されてるんだもの。

みなさーん、読んでくれてますか?
読んでないよね。
フォロワーさん少ないし。

だけど、今日はなんていう日だろ?
こんなメルヘンだか、SFだか、よく解らない世界に来てしまって、しかも下で大いびきをかいて寝ているのが、私が昔描いたオリジナルキャラクターの、あのとげクマだよ。

夢なら覚めろ!

このまま『オズの魔法使い』のお話だと明日はブリキのきこりに会う事になる。
それともちゃんとわたしの部屋で目が覚めるのだろうか?
そんな事をいろいろ考えているうちにわたしは眠くなってしまった。



7 ブリキの木こりはあの人



朝になり、窓から日の光が差し込んだ。
三人(一人と一匹と一体)で外へ出た。
かなり広かったはずの食堂兼宿泊所は外から見ると、丸太で作った小さな木こり小屋だった。
なんかトリックアートみたいだ。

この世界では、こういう目の錯覚を利用して物語の舞台が作られているようだね。
マンチキンの人たちが小さく見えたのもそう。
長い道のりを歩いている気がするけれど、実際には案外短い距離なのかもしれない。

木こり小屋から黄色いレンガの道に戻って歩き出すと何かのうめき声が聞こえた。
まあ、当然あの登場人物の声なんだけどさ。
ここはお話婆さんのご機嫌伺いで、それらしく反応してあげましょう。

「あら?あの声は何かしら」
レンガの道を外れ、声のする方に歩いて行くと、当然そこにはブリキの木こりがいた。
仕事中に雨に降られ、体が錆びついてしまって動けないという設定だったよね、と思いながら聞いた。
「まあ、どうしたの?こんなところで」
「仕事中に雨に降られ、体が錆びついてしまって動けないんだ」
ブリキマンは私が考えてた通りのことを言った。
「私の木こり小屋から油さしを取ってきて欲しいんだ」
「もう持って来てあるぜ」
とげクマが油さしを差し出す。
「そうそうその調子。てっとり早くお話を進めちゃいましょう」

油をブリキマンの首や腰、腕、足と、関節と言う関節にとげクマは油を差した。
「ひゃ~助かった。もう1か月ぐらい前からずっと助けを呼んでいたんだよ~」
なーんて、かったるい事を言っているブリキの木こりを置いて、わたし達は黄色いレンガの道を歩いていた。
「おーい、ちょっと待っておくれよ。君たちはどこへ行くんだい?」

「いい?一度しか言わないからよく聞きなさい」

「わたしは元の世界に戻るため、このかかしは空っぽの頭に脳味噌をもらうためにオズの魔法使いに会いに行くの。あなたブリキ製だから心がないんでしょ?オズに頼めばもらえるかもーなんて甘い考えがあるなら付いて来なさいな」
わたし達はさっさと歩き出した。

また錆び付いちゃったのかと思うぐらいしばらく何か考えてたブリキの木こりは、急に走り出した。
「おーい、僕も一緒に連れてってよ~」

黄色いレンガの道の向こうに虹が架かっていた。

その虹はまるで絵に描いたように美しかった。
「ねえ、虹って雨の後に出るよね、普通。今日、雨降ったっけ?」

その時、どこからともなく音楽が聞こえてくる。
「おお、いいね。『虹の彼方に』じゃん」
とげクマが言った。

なるほど、これが『虹の彼方に』っていう曲ね。
どこかで聞いたような気がする。
でも私にとっては『オズの魔法使い』は映画の『オズの魔法使い』ではなくて、子供の頃に読んだ子供向けの『オズのまほうつかい』の方だ。
この曲がどこからともなく流れているということは、「お話婆さん」がとげクマの記憶にある曲を読み取って再現しているということになる。
恐るべし「お話婆さん」。

ガチャン、ガチャンと後ろからずっと音がしている。
当然ブリキの木こりだ。
ブリキの足でレンガの道を歩いてるんだから。

私は振り返って改めてブリキの木こりを見た。
斧を肩にかついで、ぎごちなく歩いてくる。
ふと誰かに似ている気がした。

「あ~!小野田課長!」

紛れもなくそれは私の会社の上司、小野田課長だった。
定年退職で会社を去ったのが半年ぐらい前だ。
わたしは近くによってそのブリキマンの顔をまじまじと見た。
ブリキで作られ、デフォルメされているけれど間違いなかった。
「僕はブリキの木こりだよ。小野田っていう名前にも覚えが無くもないけど」
その時、カカシの加橋君がひそひそ声で言った。
「ここへ来て長いほど元の世界の記憶があやふやになるんだ。小野田課長は僕より早く来ているからね」
そして付け加えた。
「あまり大きな声でストーリーに関係ないことは言わない方がいいぜ。『お話婆さん』のダメ出しが怖いから」
わたしたちはしばらく小声で話をしながら黄色いレンガの道を歩き続けた。

♪ 虹の彼方に ♪

ブリキの木こりがいた森を抜けたと思うと、今度は鬱蒼と茂った深い森の中へと黄色いレンガの道は続いてた。
さっきとは違って、小鳥のさえずりも少なくなり、薄暗い。

レンガの上を落ち葉や枯れ枝が覆い、歩きにくかった。
さあ、次は気の弱いライオンが出て来る番だけど、この森だったかどうかよく覚えていなかった。
『オズの魔法使い』は小さな頃に何度も読んだけれど、大きくなってからは読み返した事はないので、記憶は結構あやふやだ。
かかしは会社の同僚の加橋君で、ブリキの木こりは小野田課長だった。
と言う事はライオンも誰か会社関係の人が演じる事になるのかな?

私の知っている会社の人で辞めた人を思い出そうとした。
まさか、会長?
死んでるし~



8 ライオンは誰?



その時、前の方からリアルなライオンの鳴き声が聞こえた。
いやいや「鳴き声」なんて生易しい物ではなく、これぞ「咆哮」(ほうこう)と言うやつだ。

ジワリとレンガを踏みしめて登場したのは、会長のライオンではなかった。
ライオンのようにも見える、見知らぬ猛獣だった。
これに比べたら本物のライオンも可愛らしく見えちゃうような迫力満点のね。

そいつはもう一声吠えた。
トト役のとげクマが「ワンワン!」と言いながらかけ寄った。
「なんだこのチビすけ!」
ライオンは(ライオンと言う事にして)そう言うと、前足をぶん!と払った。
とげクマは7メートルほどもリアルにぶっ飛んだ。

「な……」

しばらく絶句してしまった。

「何するのよ!」
わたしは勇気を振り絞ってライオンの前に出た。
「弱い者いじめはよしなさい!」
そう言いながら背伸びをして、ライオンの鼻づらをゲンコで殴った。
ライオンは牙を剥き、わたしにじりじりと向かって来る。
ま、まさか。
その時またあの音にならない音がして、ライオンがどーん!と後ろにひっくり返った。
『お話婆さんの』ダメ出しだ。

起き上がったライオンは、おいおい泣きだした。
「どうして僕の鼻を叩いたのさぁ。痛かったじゃないか」
「あんたがトトに乱暴したからでしょ!?」
とげクマを指差した。
とげクマは吹っ飛んで、そこでまだ逆さまになっている。
「だって怖かったんだ。近づいて来るからさ」
おうおう、ちゃんと弱虫ライオンを演じてる。
だけど、その猛獣の目は憎しみでぎらぎらと光っていた。
『お話婆さん』のダメ出しがなかったらたぶんわたしは痛い目に合っていたんだろう。
そう思うと冷や汗が出た。

ここはちゃんとドロシー役を演じることにしよう。
ダメ出ししてくれた『お話婆さん』に敬意を表してね。

「怖かったですって?なんでライオンのあなたがあんな小さな犬を怖がったりするわけ?」
とげクマは精一杯体を小さくして震えている。
ライオンも震えながら言った。
「ぼくは生まれつき臆病者なんです。体は大きくなったけれど相手がどんな小さな生き物でも向かって来られると怖いんです」
「それは気の毒だなー」
と、かかしとブリキマンが声をそろえて言った。
「ねえ、ライオンさん。私達はみんな、エメラルドの都へ行ってオズの魔法使いに会うの」
「そうさ。それで僕は空っぽの頭に脳味噌をもらうのさ」
「それから僕はこの空っぽの胸に心臓をもらおうと思うんだ」
『オズの魔法使い』のお話の通り、スムーズに行ってるわね。

「それからわたしとトトは故郷の、カ……神田須田町に帰る方法を聞きに行くのよ」
ここは譲れない。
カンザスなんかに帰されては困っちゃうもんね。
「そうすると、そのオズの魔法使いに頼めば、ぼくに勇気をくれるだろうか?」
とライオンが言った。

「きっともらえるわよ。だってオズの魔法使いは一番偉い魔法使いなのよ!一緒に行きましょ。あなたがいると心強いわ」
「見かけだけでもね」
と、かかしが言うと全員が笑った。

黄色いレンガの道まで引き返して歩き始める。
とげクマが先頭。
次にブリキマンが邪魔な木があると斧で切り開きながら歩く。
つぎにわたし。
後ろにかかし。
最後尾にライオンが続く。
「これで、どんな敵が来ても大丈夫ね」
深い森をやっとのことで抜け出すと、青空の下のなだらかな丘を黄色いレンガの道がどこまでも続いているのが見えた。



9 再び舞台裏



その時、急に空が暗くなった。
「さ、今日はここでいったん休憩だね」
かかしが加橋君の顔に戻って言った。

レンガの道を外れてすぐの所に小さな小屋があった。
かかしはそこへ入って行く。

「これが今度の食堂兼宿泊所なのね」
丁度お腹がすいてた。
『オズの魔法使い』の登場人物にさせられ、いやでも演技を強制されている時間を私達は『物語の時間』と呼ぶようになっていた。
その『物語の時間』が終わると、あたりの景色は輝きを失い、配役たちは元の表情を取り戻す。
かかしの加橋君もブリキの木こりの小野田元課長も、扮装はそのままだけれど表情が本来の表情に戻る。

テレビでも時々あったけれど、生放送の画面にCGを合成する技術。
あれのものすごく発達したものなんじゃないのかな?
『物語の時間』中はそれが働いていて、舞台も背景もリアルだし、役者たちもそれらしく見えだす。
マンチキンの人たちもほんとは普通の背丈があるのに小さく見える。

それもこれもみんな、『お話婆さん』の力だと言うのかな。
この場所?この世界?この星?を牛耳っている、得体の知れない『お話婆さん』の仕業なのかな?
なぜ、こんな世界が出来てしまったんだろう。
そしてなぜわたし達がここへ来ることになってしまったんだろう?
ありえね~
わたし達はそれぞれ好みのメニューをテーブルに並べて長いテーブルの前に座った。
みんなの顔を見る。
とんでもないのがライオンだった。
椅子に座っていても天井の照明に頭が当たりそうなほどでかい。
生肉を食ってるし。
ドロシーとして、ライオンの鼻づらをゲンコで殴った時、ちょっと力が入りすぎた。
あの時の怒りに満ちた目を思い出して、じんわり汗が出た。

「あ、あのライオンさん」
ライオンは生肉をほうばりながらこっちを見た。
「ライオンさんはライオンじゃないわね」
「当たり前だ。あんな地球のチンケな獣と一緒にするな」
と、ライオンは言った。

そう、どう見てもライオンより大きくて体中に生えている毛は赤っぽくて、たてがみは黒かった。
確かに猛獣に違いない見かけをしているけど、こんな動物は図鑑でも見た事がない。
『物語の時間』が終わってもこのライオンだけは見かけも変わらないし。
たぶんこのままの生き物なんだ。
「ライオンさんはどちらから?」
「俺はトゥインクァン星から来たのさ。宇宙船に乗ってな」
ま、まさかの展開。
遂に宇宙人が登場?
まあ、ここまで来ちゃえば、何があってもおかしくないけどね。
「俺たちは銀河海賊を捕まえて賞金を稼いでいたんだ」
「海賊の反撃に遭って、ワープ装置が狂って、気が付いたらこの星の近くに飛ばされてた。宇宙船は通常航行には問題ないはずなのにコントロールがきかず、この星に引き寄せられるみたいに不時着したんだ」

きれいな日本語だ。
ライオンの口を見ていると、ほんのわずか声とずれている様な気がした。
これも『お話婆さん』の力?
同時通訳みたいな。
「さっき俺たちって言ったよな?」
と、とげクマが聞いた。
「誰か仲間が一緒に乗っていたのか?」
「おうさ。俺たち賞金稼ぎは、たいてい二人組だ」
「そのもう一人はどこにいるの?」
「それが判らん。ここに来てそろそろこの星の時間で2カ月ほどだ。『お話婆さん』とやらに引き裂かれてそのまま、一度も会った事がない」
ライオンが次の生肉を口に放り込んで噛み始めた。
そこでみんなは、話に聞き入っていて、料理が冷めてしまった事に気がついて食べ始める。
「しかしこの奇妙な星は何なのだ?お前たちの星でもないと言うのか?」
ライオンがそう聞いても誰も答えられなかった。

「たぶんわたしたちの地球ではないと思うわ。『オズの魔法使い』と言う物語を演じさせるのに使うストーリーが、わたしの記憶にあるものなんですからね。原作の本ではなくて」
「ここには『オズの魔法使い』の本が存在しないんでしょうね」

わたしは冷めたカルボナーラを食べていた。
ふと、あの日の昼食を思い出した。
その後に、バスにさえ乗らなければこんな事にはなっていなかったんだろうな。
さて、これでドロシー御一行様は揃ったわけだ。

その夜、わたし達は同じ部屋で眠った。
わたしととげクマが同じ二段ベッドの上と下。
かかしとブリキマンがもう一つのベッドの上と下。
ライオンがその間の通路でね。
他の部屋も空いていたけれど、どうせライオンは二段ベッドは小さすぎて横になれなかったんだ。

でも、結局、夜中にライオンのいびきと言うか、唸り声がうるさくて4人全員がとなりの部屋に替わったんだけどね。

次の朝、黄色いレンガの道をまた歩き始める。



10 グダグダの「オズの魔法使い」



どこまでも薄暗い深い森が続いていて、うんざりしかけた頃、急に明るくなって空が見えた。
でもそこは深い谷だった。
レンガの道はそこで途切れ、むこう側からまた続いていた。
「ようし、ここはひとつ僕に任せておいて」
ブリキの木こりは担いだ斧を右手で高くさし上げた。
そして崖のすぐそばに生えている背の高い木を切り始めた。

ブリキマンの斧はとてもよく切れた。
見る見る木は揺れ始めた。
ライオンが前足でちょいと押すと、めりめり音を立てて倒れ、谷の向こうに届いて風変わりな橋になった。
みんなが渡り始めた時後ろの森から何か動物の吠える声が聞えた。

「あれはカリダと言うこの辺に棲む怪獣の声だ」
そうブリキの木こりは言った。
「カリダですって?」
「そうなんです。ドロシーさん、世にも恐ろしい怪獣です。早く逃げなければ捕まると喰われっちまいますぜ」

全員が橋を渡りきったその時、何者かがその橋に足をかけた。
ところが橋の上には姿が見えない。
橋がたわんでいるので何かが歩いて来るのが判った。
「早く!木を切るんだ」
と、かかしが叫んだ。
ブリキの木こりは疲れを知らない。
瞬く間に木は切れて、谷底に落ちて行った。
怪獣の悲しげな叫び声と一緒に。

「なんであいつの姿が見えなかったんだろ?」
とげクマが言った。
「たぶんわたしのせいね。子供の頃読んだ時、カリダと言う怪獣の姿をうまく思い描けなかったんだわ。イメージとしてね」
そうなんだ。
もう一度説明しておくと、この世界には『お話婆さん』と仮に呼ばれるこの世界を支配している意識のような存在がある。
その『お話婆さん』が何のためなのか、いろんなところから人を強制的に呼び集めちゃってる。
そしてその人々に、ある物語のストーリーの配役を割り当て、お話に沿ってリアルタイムで演じさせてしまう。
そのストーリーと言うのが拉致られて来た人の、頭の中にある物語なんだそうだ。 前からここにいる人の話ではね。
それで今、わたし達はわたしが子供の頃に読んで覚えている『オズの魔法使い』を演じているわけ。
わたしの子供の頃の記憶だから、かなりいい加減なストーリーなんだけど。

『お話婆さん』は人の記憶を読みとれるらしい。
もしも登場人物として、演じるのを拒むと『お話婆さん』の『ダメ出し』が入る。
この『ダメ出し』と言うのが、目に見えないエネルギーなんだよね。「ちゃんとストーリー通りに演技しろ」と言わんばかりに背中を押される。
突き飛ばされたり、ひどい時にはひっくり返されたりね。
それでも素直に演技を続けなかったツワモノがいたそうで、その人はどことも知れない所へ飛ばされたらしい。
どこへだろうね。
二度と帰って来なかったそうだけど。

とまあ、そんな、なんとも我儘な『お話婆さん』によってこの世界は支配されている。
そして誰もその『お話婆さん」の正体は知らないし、もちろん見た人もいないと言う。
とりあえずドロシー役を最後までやるしかないのかな。
谷を、切り倒した木の橋で渡って、黄色いレンガの道に戻った。

歩くうちにだんだん木はまばらになって行き、森が終わりそうになって来る。
薄暗い森は、もうそろそろ嫌気がさして来ていたのでそれだけでちょっと嬉しかった。
そして目の前に今度は川が流れていた。

空はとても広く見え、きれいな青空だった。
川の向こう岸には黄色いレンガの道が美しい田園風景を縫って続いていた。
その清々しさは、目の前の川を障害物だとは感じさせなかった。
わたしの記憶では、この川はブリキの木こりが切った木を使ってイカダを作って渡ることになっていたと思う。
ところが流れが急で流されてしまい、かかしは竿に掴まったまま川に取り残されるなんて事件が勃発するんだよね。

ちょっとでも早くお話を終わらせたいと思ったわたしはブリキの木こりにこう言った。
「あそこにある木を切ってまた橋を作りましょう」
これはちょっとした賭けだった。
『お話婆さん』を試してみたかったんだよね。
絶対に私の頭にあるストーリー通りでないと『お話婆さん』は『ダメ出し』をするのか、大筋に影響がなければ少しぐらいは大目に見てくれるのか?
ブリキの木こりは木を切り、ライオンが川に向けて押し、即席の橋は出来た。
『お話婆さん』の『ダメ出し』が出るんじゃないかと恐る恐る橋をわったった。
最初にわたしととげクマが。 次にかかし、そしてブリキの木こり、最後にライオン。
その時ふっと嫌な予感がした。
あの目に見えない怪獣カリダ。
これがコメディー映画だったら、ここであいつが登場するという繰り返しのギャグを放り込みたいところだ。
でもその様子はない。
念のために木の橋をライオンに川に流してもらった。

黄色いレンガの道を歩き続ける。

天気が良くて、温かで、空高く小鳥の声。
なだらかな丘陵地帯をレンガの道は横切っている。
歩いて行くうちに、緑一色だった草原にちらほらと赤い花が見えてきた。
少しオレンジがかった赤色をしたポピーの花だった。
歩けば歩くほどに道の周りに赤い花が増えて行った。
そして気が付くとあたり一面が花のじゅうたんになっていたんだ。
来た道を振り返っても、もう他の色は見えなかった。
そしてわたし達は濃い花の香りの中に立っていた。
ふと、わたしはその香りを嗅いで眠気が襲って来るのに気が付いた。

そう、『オズの魔法使い』ではこのポピーの花畑の中でドロシーとトト、そしてライオンが眠ってしまう。
かかしとブリキの木こりは生身ではないので平気だ。
そういうストーリーなんだけど、ここではそのお話の通り眠ってしまうお芝居をすればいいと思っていた。
それが、本当に眠くなるなんて。

わたしはもう立っていられなくなった。
ドロシーとトトは眠ってしまってもいい。
かかしとブリキの木こりが助けてくれるからだ。
でも問題は大きな図体のライオンだ。
眠ってしまうと、とても運べやしない。
もちろんライオンは助かる。
でもわたしはどうやって助かったのかを覚えていなかった。
ライオン役の異星人はかなり眠そうだ。

「ブリキマン、お願い」
わたしはそう言うと眠ってしまった。
なんと、眠っているわたしを見ているわたしがいた。
ゆ、幽体離脱?
これも『お話婆さんの』力なの?

ライオンは大いびきをかいて眠ってしまった。
それに寄り添うように私が眠っている。
トトは…
トト役のとげクマは起きていた。
そうだね、あいつはぬいぐるみでもなく、元はぬいぐるみと言う設定の絵だったんだから当然か。
ブリキマンに、あらかじめ頼んでいたことがあったんだ。
川を渡るための橋にした木を、川に流す前に輪切りにして、車輪を4個作った。
それと枝を組み合わせて台車を組み立てていた。
ライオンはそれを担いで歩いてきた。
その台車にブリキマンとかかしととげクマが苦労してライオンを乗せた。
それに凭れるように私も乗せられる。
ブリキマンが引っ張り、かかしが押し、台車はがたごと動き出す。
それについて歩きながらとげクマが鼻歌を歌う。
「ふ~んふ~んふ~ふふふ~ふん……」
『虹の彼方に』だ。
するとそれにかぶさってオーケストラの演奏が始まった。

おうおう、『お話婆さん』も乗ってるようだね。
わたしの意識はドロシー一行を上空から俯瞰していた。
ポピーの赤一色だったレンガ道の両側に、やがてぽつぽつ他の色が混じりだし、そして元通り、緑の丘に色とりどりの花がところどころ咲いているだけになった。
わたしは自分の体に戻り、ライオンのそばで目を覚ましていた。
心配そうに覗き込むかかしとブリキの木こりの顔が見えた。
黄色いレンガの道をとげクマが向こうから走って来る。
「この向こうあたから家が建っているのが見えるぜ」
とげクマが言った。
ライオンがのっそりと起き上った。
一人と一匹と三体は足取りも軽く歩き続けた。
とげクマの言ったように、道の両側には緑色の柵が装備され、柵の切れ目から続く道の向こうに小さな緑色の家が建っているのが次々に現れた。
それはだんだん数が多くなってくる。
「エメラルドシティーが近くなってきたんだわ」
わたしは言った。
家がみんな緑色だもの」



11 またもや舞台裏



それからみんなはかなーり歩き続けた。
でもなかなかエメラルドの都は見えてこなかった。
「お腹すいちゃった~」
急に空が暗くなって、あたりの風景も色あせた。
「今日はここまでだな」
とげクマが言った。
「食堂兼宿泊所は今度はどこかな?」
そのあたりにある家の一軒だけに明かりが点いていた。
「あそこらしいわね」
小さな家の緑色のドアを開けて中に入ると、おなじみの広い食堂があった。
「これで三度目だけれど、いつも同じ場所みたいな気がする」
かかしは椅子に腰かけながら言った。
「たぶん外観が違うだけで、同じところさ」
みんなそれぞれ好きなものを注文して食べ終わるとベッドのある部屋に引きこもったけれど、わたしは何となく外へ出てみることにした。
ドアを開け、家の裏へ回ると昼間の美しい風景が嘘のように、荒れ果てた場所だった。
夕暮れの弱い光に浮かび上がるのは家の瓦礫のようだった。
樹木は全て枯れ、地面の舗装ははがれ、歩きにくかった。
そう。
そこはどうやら誰も住まなくなった街のなれの果てみたいに見えた。
「と・しょ・かん……?」
傾いている大きな建物に掛かっている看板の文字を読んだ。
「なんとか区立図書館だわ。まさかここは地球で、まさか日本なの?」
わたしは建物の中に入って行った。
埃や土で汚れた貸出カウンターの前を通り書棚の前に来る。
天井まで届く書棚の本は半分以上が床に落ちて積み重なっている。
その中の一冊を拾い上げた。
ぱらぱらとめくるとやっぱり日本語だ。
「訳わかんないよう」
わたしの声が広い部屋に響いた。
「そうだ。あの本はあるかしら」
わたしは本を乗り越えて歩きながら探した。
子供向けの本のコーナーにわたしの読んだ『オズのまほうつかい』があった。
その本を持って外へ出ようとした時、文庫本の『オズの魔法使い』がある棚を見つけた。
「角川文庫?」
それはよく見ると早川文庫から出ている『オズの魔法使いシリーズ』で、全部で14冊あった。

「『 オズの虹の国 』『オズのオズマ姫』『オズと不思議な地下の国』『オズの……』こんなにあるの?」
読んでみたいと思った。
でも、その時気が付いたんだ。

これがもし『お話婆さん』に知られたらどうなるんだろ?
たぶんわたしはこの物語全部を演じるまで返してもらえない?
「冗談じゃないわよ!」
わたしはその文庫本を床に積み重なっている本の下に埋めた。
『オズのまほうつかい』と一緒に。
『お話婆さん』は人の記憶を読み取ることは出来るけれど、こういう本みたいなものを自分で読むことは出来ない?
アナログな、紙に印刷された媒体は…。

「はっ!まさか『お話婆さん』ってコンピューターみたいなもの?」
SFによくある人工知能の暴走ってやつかもね。

『お話婆さん』は全知全能の神のような存在ではない。
何だかそんな気がしてきた。
『お話婆さん』のコンセントを引っこ抜いてやれば一件落着って事になんないかな?
わたしは宿泊所の部屋に戻ってベッドに横になり、あれこれ考えながら寝るともなく起きるともなく夜を過ごした。

空が明るくなりかけた頃、みんなが眠っているうちにまた一人で外に出た。
お話の時間はまだ始まっていない。
背景は色褪せたままで、その背景の後ろには瓦礫の町が見える。
それを見つめているうちに急に空が明るくなり、風景が美しさを取り戻す。
瓦礫の町はもやのような物で覆い隠されて行く。

こうやって、また物語が始まるんだ。
私たちはまた歩き始める。
オズの魔法使いに会うために。



12 やっとこさエメラルドの都



黄色いレンガの道の両側に、緑色の小さな家がだんだん増えて行く。
「家がみんな緑色なのはオズの住むエメラルドの都が近いと言う事でしょうね」
とかかしが言う。
緑の家の前に立っている人はみんな緑色の服を着て、緑色のとんがり帽子を被っていた。
その中の一人の女の人に私は聞いた。
「エメラルドの都までどれぐらいあるのでしょう?」
「そうだねぇ、歩いてならあと三日ほどかしら」
女の人はライオンから目を離さずに答えた。
ライオン大きくて見るからに凶暴そうなので、油断はできないと思っているのね。

「あんたたち、エメラルドシティーへ何しに行くんだい?」
「オズの魔法使いに会いに行きます」
「行っても無駄だと思うがね」
「どうしてですか?」
「オズの大王様は誰にもお会いになられないよ。私たちの中にも、誰もお会いした者はいないからね」

うんうん、ちゃんと『オズの魔法使い』らしく進行してるわね。
わたしの読んだ『オズのまほうつかい』は低学年向けだったのでごく短かかった。

でもあの図書館にあった『オズの魔法使い』の文庫本はかなり長いお話みたいね。
抄訳と言うのではなく、オリジナルそのままの翻訳だ。
しかもシリーズの続編がたくさん書かれていて……

いけないいけない。
こんなこと考えちゃ。
『お話婆さん』に読み取られると大変だ。

なんて、こんな事ツイートしても大丈夫なのかな?
今の所だいじょぶそうだけど。
わたしのツイートしたものはこの世界ではなくわたしの元いた世界に送信されているのだと思う。
『お話婆さん』が見たら大変だものね。
『オズの魔法使い』のオリジナルは、かなり長いお話だと知られる事になっちやう。
しかも続編が十数冊あると判るとそれを全部演じないことには帰さない、っていうことになるかもしれない。
おそろしや~
なるべくそのことは考えないようにしなくちゃね。
今はただ、無心にドロシー役をこなすことに専念だ。
また黄色いレンガの道を歩き始める。

「ほら、ごらんなさい。向こうの空が緑色に光ってるわ」
「おお、あれはきっとエメラルドの都の光に違いない」
と、ライオンが言った。
「住人の話では三日かかるんじゃなかったか?」
「たぶん、小さい子供向けの本だから、その辺ははしょってるんじゃない?」

足取りも軽く歩き続けた。
でも結構歩いても歩いてもエメラルドシティーは見えてこなかった。

みんな無言で歩き続け、そろそろダウンしそう。
空が薄暗くなり始めた頃に、やっとのことでエメラルドシティーらしい緑色の建物の群が小さく見えた。
「あれがきっとエメラルドの都ね」

みんなは少し元気を取り戻して、足に力を入れて歩き出す。
レンガの道に影が長い。
やっと見えてから、そんなに時間は経っていないのに、エメラルドシティーは見る見る大きくなり、私たちはその城壁の門の前に立っていた。

「なんだか、時間配分おかしくない?」
「ま、そんなもんだろ?子供の記憶だしな」
エメラルドで装飾された光り輝く緑色の門の扉をノックすると、緑の服を着た門番らしい小柄なおじさんが小窓から顔を出した。

「なんだ?お前たちは」
「わたし達、オズの大魔王様に会いに来たんです」
門番は目を丸くした。
「オズ様は誰にもお会いにはなられない。わしだって会ったことはないんだ」
私はだんだんめんどくさくなってくる。

「おじさんこれ見てよ」
と言いながら私の履いている赤い靴を見せた。
「これは悪い東の魔女の靴だよ」
「それをどうしたんだ?」
「わたしが東の魔女を退治して、もらって来ちゃったのよ」

門番の顔が小窓から引っ込むと、緑色の門はゆっくりと開いた。

「どうぞ入りなさい。そう言う事ならお会いになられるやもしれぬ」
エメラルドの都は高い城壁に守られた大きな街で、どこもかしこも緑色に塗られていた。人々の着ている服も緑色で、身につけるアクセサリーは緑色の宝石、エメラルドだけ。

本で読んだり、さし絵で見ると、綺麗なんだけどさ。
緑の背景に、緑の人が行き交うのでよく見ていないとぶつかりそうになってしまう。

「あー、もうなんだかわたし、緑色に酔っちゃいそう」
「ストーリーに関係ない事を大声で言うな」
と、とげクマが言った。
「そだね」
ストーリーを大きく変えるような行動をすると、『お話婆さん』のダメ出しが入る。
どの程度まで大目に見ているのかが、も一つ分かんないのでびくびくもんだわ。

門番に案内されたのはエメラルドの都の真ん中のお城だった。
これもまた緑色だけれど、塗料を塗っているのではないような気がした。
素材そのものが緑色で、輝いている。
ひょっとして全部エメラルド?

まあ、とは言っても恐らくリアルタイムCGで合成されているんだろうけどさ。
そのお城と言うか宮殿と言うか、その建物の扉の前には槍を持った緑色の兵士がいた。

「東の魔女を退治したドロシー様が、オズの大魔王様にお目にかかりたいとおっしゃっておられます。お目通りを願いたい」
門番が言った。
な~んて、いちいち「オズの魔法使い」のストーリー通りの所をツイートするのもめんどくさくなって来ちゃった。

だもんで、かなり省略!



13 駆け足で「オズの魔法使い」



オズさんは玉座の上に乗っかったハゲちゃんの途方もなく大きな首なわけで。
カンザス…じゃなかった、神田須田町に帰りたいと言うと、ただ一人残った悪い西の魔女を殺してそのほうきを持って来いと言われて、ドロシー役のわたしと、かかしと、ブリキの木こりと、ライオンと、トト(とげクマ)が出かける。
それでまあ、エメラルドの都を出てぞろぞろ歩いているわけ。
「その西の魔女ってどこにいるのかな?」
斧を担いだブリキの木こりが言った。
「まあ、適当な方向に歩いてればそのうち出くわすわよ」
どうせ作り物の舞台だし。
歩いて行くうちにライオンが言った。
「さっきから気になってたんだが、あのオズの大魔王の顔、俺の相棒に似ているんだがな」
ライオンは遠い宇宙の異星人で相方と組んで宇宙海賊相手の賞金稼ぎをやっているとか言っていた。
「この星に引き寄せられるみたいに不時着した時に離れ離れになったんだ。あの時、あまりにもでかい頭だけだったから解らなかった」
「あなたの相棒って人間なの?」
「というか、この星の住人によく似たヒューマノイドだ」
ライオンの本名はセグライアンと言うらしい。
相棒の名前はオズボーン。
なんだか演じている配役の名前と微妙にかぶってるよね。

かかしは元同僚の加橋君。
ブリキの木こりは元上司の小野田課長。
斧を担いでるでしょ。
ライオンがセグライアンで、オズがオズボーン。
犬のトトがとげクマで……

わたしはどうなの?
海野遥香。
ドロシーとは似ても似つかない名前じゃん。

ひょっとして、カンザスと神田須田町が似ているから選ばれたの?
だとしたら思いっきり、いい加減なキャスティングだわ。
神田須田町は私の会社がある場所で、私の家がある所じゃないしね。

さて、悪い西の魔女は片目だけれど遠くまで見える目なのでドロシー一行をすぐに見つけちゃうのね。
そしてオオカミの一隊を差し向けたり、カラスの群を差し向けたり、黒蜂の大群や空飛ぶ猿たちを向かわせてやっつけようとするんだけど、それをいちいち迎え撃つのはかったるい。
だから、わたしととげクマが先に行くことにした。
わたしたちは物陰に隠れながら先を急いで、かかしとブリキマンとライオンがことさら目立つようにゆっくりと歩いた。

しばらくするとオオカミの群れが横を通り過ぎた。
ひとしきり騒がしくなり、すぐに静かになった。
オオカミたちはやられちゃったようだ。
まあ、あのライオンの相手になるわけないわね。

見上げると、今度は森の木々の上をカラスの群れが飛んで行った。

そうこうするうちに西の魔女の住むらしい古びたお城が見えて来た。
お城の門は開きっぱなし。
わたしはそばにあったバケツに、お堀の水を汲むと、それを下げてお城に入って行った。
森の方を見ると、空飛ぶサルたちが飛び去る所だった。

「西の魔女は水をかけられると体が溶けちゃうのね」
「なんだそりゃ?」
とげクマが言った。
「そんなひ弱な魔女がいてもいいのか?」
「そうなの。わたしも幼心にそう思ったのを覚えてるわ」

魔女がいると目星をつけた部屋のドアを開いた。
片目の西の魔女は目を見開いた。
「はあ~のどが乾いちゃった」
そう言いながらテーブルの上のコップを持った。
そのコップで、とげクマの持っているバケツの水をコップに汲んだ。
「お前はドロシー!どうやってここへ?」
「ごめんなさい。西の魔女さん」
水を魔女の足の先にかけると、蒸気が出始めた。
「わたしたち、もう『オズの魔法使い』のお話に飽き飽きしてんの」
「ギャア~!何をするんだ、この小娘が!」
魔女は迫真の演技だ。
今度は手に水をかける。
「うぎゃ~!」
手の先がじんわりと溶けて無くなってしまった。
リアルタイムCGだと思ってもなかなか迫力がある。

「なぶり殺しって趣味じゃないから、ひと思いに行くわよ」
とげクマからバケツを受け取ると魔女に頭から水をかけた。
魔女は溶けて行きながらしゃべった。
「なんということをしてくれたんだお前は。水がわしの命とりだってことを知らなかったのかお前は?」
「知ってたわよ」
わたしは当然の顔をしてそう言った。
だってそうでしょ?
『オズの魔法使い』の中では西の魔女がドロシーが履いている東の魔女の靴を取ったのに腹を立てて、そばにあったバケツの水をかけるんだけど、ドロシーは魔女が水に弱いことは知らなかった。
思わずかけてしまったのね。
そこにこの魔女のセリフ。
「水がわしの命とりだってことを知らなかったのかお前は?」
知ってたら水をかけなかったみたいな言い方。
知ってたらかけるでしょ?と幼い頃からずっと疑問に思ってきたセリフだった。
それにさあ、そんなに危険な水が入ったバケツを自分の部屋に置いてるのかと言う事でしょ?
わたしだったらそんなことしないわ。
自分のお城の近くにある井戸は埋めて、水源も水を抜いて枯らしておくわね。
「まあいいか」
わたしは魔女の溶けてしまった後に残っているとんがり帽子を手に取った。
匂いを嗅いでみる。
魔女が溶けたのはリアルタイムCGなので、汚れてもいないし臭くもなかった。
でもなんとなく確かめちゃう。
その帽子をかぶると空飛ぶサルたちが命令に従うようになって、わたしをエメラルドの都に連れて行ってくれるはず。
でも、サルは一匹もいない。
たぶんライオンたちにみんなやられちゃったのね。
わたしはほうきにまたがった。
わたしがまたがるほうきの柄の方にとげクマが座った。
重くてふらつく。
とりあえずテラスから飛び立つと重さはなくなった。

飛びながら頭の中にユーミンの『ルージュの伝言』が鳴り響いた。
『魔女の宅急便』かよ。
下の森の中の道を見ると、でかいライオンがまず目に入った。
そしてかかしとブリキの木こり。
「みんな~取って来たわよ。西の魔女のほうき!」

全員がほうきに掴まって、よたよた飛びながらエメラルドの都に帰ってきた。
と言う訳で再びオズの魔法使いのお城にやってくると衛兵に先導されてめちゃ広い、丸天井の接見の間に案内された。
このくだりは前回はめんどくさいので省略しちゃったね。



14 オズは相棒



オズは玉座に乗っかったでっかい頭だけの姿だ。
「ライオンさん、どう?」
わたしが聞くとライオンはそのオズの顔をまじまじと見た。
「ふふふ、やっぱり相棒のオズボーンだぜ」

「なんだと?あの悪い西の魔女が溶けてしまったと?」
オズのオズボーンは芝居を続ける。
わたしとライオンは玉座の後ろに回ってカーテンをくぐった。
案の定そこにはビデオカメラの前に顔だけメイクした一人の男の人が機器を操作しながらマイクに向かってしゃべっていた。
「それではその証拠に魔女のほうきを…」
「オズボーン。無事だったか?」
ライオンが声をかけるとオズは振り向いた。
「お前はセグライアン!?」
「てっきり死んだものと思っていたぞ。この死にぞこないめ!」
二人は肩をたたき合った。
「お前もこの物語に組み込まれていたとはな」
喜ぶ二人に私は言った。
「感動の再開はその程度にして、物語婆さんのダメ出しが入らないうちに、お話を進行させましょ」
オズはかかしにピンクの布で作ったハートを差し出す。
「あら違うわよ。心が欲しかったのはブリキマンだし」
かかしはブリキの木こりの小野田課長にそのハートを渡した。
ブリキの木こりは両面テープでそれを胸に張り付けた。
オズは粘土で作ったらしい脳みそを、かかしに手渡す。
かかしは麦わら帽子を脱ぎ、頭にそれを乗せると帽子を被った。
「ライオンよ。お前ほど勇気のあるやつを俺は知らんぞ」
オズはそう言いながらグラスに入ったワインを差し出した。
「勇気の湧く薬だ」
ライオンは飲み干した。
そしてやっとわたしの番だ。
「わたしはふるさとの神田須田町に帰りたいのです。大王様」
「ふむ。それについてじゃが、どうしたものか」
オズが言うと、ライオンが進み出て聞いた。
「俺たちの宇宙船はどうしたんだ?」
「遠隔操縦端末は持っているが、操作ができるかどうかはわからん」
オズはベルトに着けた小さな機械を指さした。
「あなたはどこから来たんですか?その気球に乗って」
そうそう、宇宙船じゃなくて気球と言うことにしちゃえ。
「わしはオマハの生まれでな」
「それじゃ神田須田町とそんなに離れてないじゃないですか!その気球で帰れません?」
「うむ。何度かこれまで呼び寄せようとしたのじゃが、動かなかったんじゃ」
「それはお話婆さんの妨害だ」
とライオンが言った。
「宇宙船が操縦できなくなって不時着したのがお話婆さんの仕業なら、それぐらいは簡単に出来るだろ。宇宙船は壊れてはいないはずだ」
「それは端末で確認してある。全て正常だぜ」
「まあ、よかった」
その宇宙船がオズの魔法使いが乗ってやって来た気球と言うことにして、物語に組み込むことが出来たらそのままこの世界からおさらば出来るかもしれない。

あ、そうだ。
『オズの魔法使い』を知らない人のために解説ね。
オズはもともとアメリカの人で、腹話術を見世物にしたり、気球に乗るのを見世物にしたりと言う大道芸人みたいな人だったのね。
ある日気球が事故でロープが切れて、どんどん風に流され、着いたところがエメラルドの都だった。
空から降りて来た彼を人々は偉い魔法使いと思い込み、そのままエメラルドシティーで大魔王オズとして暮らしていたと言う訳。



15 お話婆さんの正体



さて、次の日。
オズは人々にひと時だけ都を留守にすると告げて気球で故郷に帰る準備をする。
エメラルドシティーの宮殿前の広場に緑の服を着た大勢の人々が集まっている頭上にそれは現れた。
こっぽりと丸い、気球に見えなくもない宇宙船だった。
オズボーンが端末で操縦してる。

宇宙船は広場の真ん中に着陸した。
近くで見るとけっこう大きい。
下の方の扉が開いてタラップが伸びた。
ぞろぞろとみんなで乗り込む。
かかしとブリキの木こりとライオンはここに残るというストーリーが本当だけど、それをお話婆さんは今のところ許している。
どれぐらい元のお話から脱線するとダメ出しが入るのかが予想できないのでちょっと不気味だった。
「それでは私はこの者たちを無事に送り届け、変わらない故郷を確認すれば再びここに戻ってくるであろう」
オズは人々に言った。
タラップが収納され、扉が閉じた時には、思わず声が出た。
「やった!」
セグライアンとオズボーンが操縦席に座る。
宇宙船は殆ど無音であっけなく浮き上がり、窓の外のエメラルドシティーがみるみる小さくなった。
どんどん上昇していくと『オズの魔法使い』が演じられていた舞台が丸々見えた。
ずいぶん長い時間旅をしたはずだけれど、そこはせいぜい3キロほどの円の中に納まる感じだった。
そしてその外側にあるものは…。
廃墟だった。
大きな都会だったようで、巨大なビルが幽霊のように立っていたり、また崩れ落ちていたり、高速道路や線路の跡も見えた。
そしてよく見ると、そんな廃墟が続く向こう側にまた色鮮やかな部分も見えた。
わたしはそこを指さした。
「また別の物語があそこでは演じられてるのかしら?」
「きっとそういう事だろうな。お話婆さんは同時にいくつもの物語をプロデュースしているのさ」
と、とげクマが言った。
「おい、何かすごいエネルギー反応があるぞ」
セグライアンは操縦席のモニターを見ながら言った。
映像は地上を映している。
そこには遊園地の廃墟のようなものが見えた。
「あそこにお城が見えるだろ?もう殆ど崩れているが。あの地下に大きなエネルギー反応があるんだ」
「あれってディズニーランドのシンデレラ城に似てるわね。それよりもっと大きいけどさ」
「うむ。あのお城の地下にはどうやら巨大コンピューターがあるぞ。接続してみる」
セグライアンはしばらくパネルを操作していた。
次の瞬間、文字を打ち込んでいたキーボードが赤い火を噴いた。
「あちっ!」
床に落ちてくすぶっている。
「お話婆さん。あんたかよ!」
セグライアンの毛むくじゃらの手が焼け焦げていた。
「大丈夫?ライオンさん!」
「はじき出されちまった。でも少しは真相がわかったぜ」
セグライアンによるとお城の廃墟の地下にあるのは、あの巨大遊園地を統括していたコンピュータだと言う。
ディズニーランドよりもずっと進化したテーマパークらしい。
「基本的に、やって来たお客の希望通りの物語を一人一人に合わせて体験させると言う場所だったようだな。それを一切取り仕切っていたのが『お話お婆さん』というニックネームのコンピューターだったのさ」
「でもそれはあの遊園地だけを治めていたんでしょ?」
窓の外の地上の景色を見た。
どこまでも廃墟が続き、ところどころに色鮮やかな数キロぐらいの円形が見えている。
それがみんな、それぞれの物語が演じられる場所なの?
「『お話婆さん』は常に最新型に成長するように設計されていたようだな。それがある日自分で勝手に成長を始めたんだ。外部へのネットワークを手に入れ、世界中のコンピューターを自分の一部にして行くのを誰も止められなかった」
そしてついにこの星全体を手に入れた『お話婆さん』は自分の理想の場所に改造して行く。
不必要なものは崩壊するに任せ、物語の舞台をいくつも用意してこの星の住人をすべて自分のプロデュースするお話の登場人物にした。
いま、この星全体では一体いくつの物語が演じられているんだろう?
それを考えるとめまいさえしてくる。

「常に物語に新しい物を求めた『お話婆さん』は、これまでのここの住人だけの演者では物足りなくなって来たんだな」
「それでわたし達が呼びこまれちゃったと言う訳?」
セグライアンは喉を鳴らした。
「異星人の我々や、時空を超えてあんたまでな。ひでぇ婆あだ」
「時空を超えてって、それじゃあわたし…」
「この星の過去から来たのさ」
「さあ、どうする?」
「どうするって何を?」
セグライアンはひそひそ声になった。
「あのお城の下にはびこっている『お話婆さん』の本体をぶっ壊す事も出来るぜ。海賊狩りのための宇宙船だ。それぐらいの武器は積んでいる」
「そうするとどうなるの?」
「今のこの星の住人全てを『お話婆さん』が養っているような物だ。それがいなくなれば混乱して大勢死ぬだろうな。でも生き残った奴らがまた自分たちの世界を作り直すだろう。年月がかかるだろうが」
わたしは後ろにいるかかしの加橋君を見た。
ブリキの木こりの小野田元課長を見た。
そして、とげクマを。
とげクマは言った。
「婆さんをぶっ壊してやりたいぜ、俺は」
その時あの音が聞こえた。
そう、ダメ出しの音だ。
ずしん!と言う衝撃の後、宇宙船は急降下した。
地上に叩き付けられる手前でスピードが落ちて地面すれすれで浮いていた。
セグライアンがいくらコントロールしようとしても出来ないようだった。
ハッチが勝手に開いた。
わたしととげクマは見えないエネルギーに押されて外へ放り出された。
そうなんだ。
ドロシーとトトはオズの気球に乗り遅れると言うのは『オズの魔法使い』の重要なストーリーだったんだ。
その部分は変えるなと言うことだね。
わたし達を残して宇宙船は上昇した。
「待ってよ~私を置いてかないでよ~」
わたしは宇宙船を追いかけた。
まあ、これは『お話婆さん』の機嫌を取るためにドロシー役としてだけどね。
「ワンワン」
とげクマも吠えた。
『お話婆さん』をぶっ壊すというわたし達の話をとりあえず無視してくれているんだろうか?
『お話婆さん』にとってはあくまで物語の進行が最も重要と言う訳なのかも。
わたしは地面に座り込んで、小さくなっていく気球を見た。



16 グリンダに会いに



ふと気が付くとわたしはエメラルドの都の広場に立っていた。
そして周りには緑の服を着た人々。
目がちかちかした。
いい加減その緑色が鼻に…いや目についていたんだ。
エメラルドシティーの兵隊が一人声をかけてくれた。
「ドロシー様、あなたのお力になれるのは南の魔女のグリンダ様しかいないだろうと思います」
「南の魔女?グリンダ?」
「そうです。ご存知ですか?」
この世界にやって来てすぐに会った北の魔女がグリンダじゃなかったっけ?
そうか、そう言う事か~
わたしの幼い頃の記憶だと北と南の良い魔女はどっちもグリンダと言う名前で覚えてしまってたんだ。
そういう思い違いをしていたんだ。
だとしたら最初に出て来た北の魔女の名前は?
どうでもいいか?
「その南の魔女はどこにすんでるの?」
わたしが聞くとオズの国の兵隊は適当な方向を指さして言った。
「南の国のグリンダ城においでです」

エメラルドの都の外に出るとかかしとブリキマンとライオンがわたしを待っていた。
「どうしたの?みんな」
わたしは駆け寄った。
「『お話婆さん』のダメ出しだよ。どうやらその南の魔女に会いに行くお供をするらしいな、俺たち」
ライオンのセグライアンが言った。

「オズボーンはどこにいるの?」
「やつは宇宙船に乗って雲の上から俺たちを見守ってるぜ」
「そうなの。ちゃんと気球がアメリカに帰れたらいいわね」

わたし達はまたまた深い森を歩き出した。
わたしの記憶にあるお話ではこの森でもいろんな出来事がある。
木のお化けとか、森の怪物とかなんやかんやと現れて、ドロシーの邪魔をするんだけど、うろ覚え。
「森を焼き払っちゃえばすんなり行けるかもね」
わたしが独り言を言うとセグライアンはスマホっぽい物に向かって喋った。
すると雲の上からピンク色の細い光線が伸びてきて、森を一直線に横切った。
幅1.5メートルほどの道が森の中に開けた。
「す、すごい」
「まあ、こんなものさ。俺たちの船の威力はな」
「あまり派手にやらないでね」
木のお化けや、森の怪物の死体らしいものを左右に見ながらわたし達が歩いて行くと、やがてお城が見えた。
南の魔女の住むグリンダ城だ。
お城の前には赤いおそろいの制服を着た娘が三人立っている。
女性の兵隊と言う感じ。
「あなたたちは南の国へ何をしに来たのですか?」
聞き方も優しい。
「わたしはドロシーと言います。グリンダ様にお会いしてお力になって欲しいことがあるの」
オズボーンがやった事の埋め合わせで精一杯ドロシーになってる。
女兵士の一人がお城の中に消えて、しばらくして戻ってきた。
「グリンダ様はお会いになられるそうです。私に付いて来てくださいな」

わたし達が案内された大きな部屋に入ると、ルビーで出来た玉座にグリンダが座っていた。
「お嬢ちゃん、あなたは私に何の御用があるの?」
グリンダは花のような笑顔で言った。
わたしはこれまでにあったことを適当に端折って、説明をした。
「かくかくしかじか」
で済ませようかと一瞬思ったけれど。
「それでわたしの今の一番の望みは、神田須田町に帰る事なんです。わたしの勤めている会社は頼りない社員ばかりで、わたしがいないと仕事もまともにできない奴ばっかりで……」
グリンダが小声で言った。
「カンザスでしょ?」
彼女は真顔になって続けた。
「カンザスと言うのは大事な設定だから、『オズの魔法使い』通りにしておいた方がいいわ。わたしは長年ここにいるから、『お話婆さん』」がダメ出しをするタイミングが、なんとなくわかるのよ」
そしてグリンダの役になりきって続けた。
「わたしは、あなたがカンザスへ帰るお役に立てますわ、きっと」
そしてかかしに向かって言った。
「あなたはドロシーがカンザスへ帰ると、どうなさいます?」
加橋君は考えた。
「ぼ、僕も神田……ドロシーについて行きたいな。カンザスでトウモロコシの見張り番をしたいのさ」
ドキッとした。
かかしはエメラルドシティーの支配者として残るはずだから。
でも、グリンダは笑っている。
いいのか?
グリンダは、今度はブリキの木こりの方を向いて言った。
「あなたはどうなさるおつもりですか?」
「わたしは……わたしもカンザスへ一緒に行きたいと思います!」
小野田課長!
そこまで言うとダメ出しが入っちゃうよ~
わたしはそれが心配でグリンダの方を見た。
「大丈夫そうよ」
グリンダは小声で言ってウインクをした。

そう言えばそうだ。
ドロシーの仲間たちがどうなるのかはわたしは忘れていたんだ。
それを今は思い出している。
『お話婆さん』はこの世界にやってきた時点の、わたしの頭にあった『オズの魔法使い』のお話を元に舞台をプロデュースしているんだ。
つまり、わたしが後から思い出した細かいストーリーは大して重要じゃないのかもしれない。
ブリキの木こりは悪い西の魔女が治めていたウインキーの国の王様になるはずだった。
「ライオンや、あなたはこれからどうしますか?」
お話ではライオンは動物の住む森の王様になるはずだった。

「私はオズと一緒がいい」

宇宙人のセグライアンは空を見上げた。
「いま、どこかを飛んでいるオズ様の気球に一緒に乗せてもらいたいんだ」
そして、スマホみたいな装置に話しかけた。
「転送装置作動!」

ライオンは光に包まれて消えてしまった。
「あ、わたしも乗せて欲しかった!」
それを聞いて、グリンダは噴き出してしまった。
「あなたは、そのあなたの履いているルビー色の靴が故郷へ連れて帰ってくれますよ」
そして小声で。
「そこが一番大事でしょ?」
そう言えばそうだね。
死んだ魔女の履いていた靴が魔法の靴で、希望の場所を強く念じてかかとを三回鳴らすとどこへでも行ける事がわかる。
それはこのお話の大事なクライマックスだ。
『お話婆さん』もそこは譲らないだろう。
『オズの魔法使い』ではかかしとブリキマンとライオンは残る事になっているけれど、ライオンは早々と気球(宇宙船)に乗ってしまった。
そして今、私の体の両脇にはブリキマンとかかしがしがみ付き、とげクマがおんぶしている。
「あ~もう!重いわよ!」
わたしは早くこいつらを降ろしたくて、グリンダに別れの挨拶もせずに、かかとを三回鳴らした。
「わたしをカンザスへ連れて帰ってちょうだい」

するとわたしはつむじ風のように空を飛んでいた。



17 お話婆さんVS異星人



わたしは足元にグリンダのお城やエメラルドシティーや黄色いレンガの道、鬱蒼とした森を見ながら考えていた。
これで本当に帰れるの?
まさか馬鹿正直にアメリカのカンザスへ着いちゃう?

わたしの時代に帰れるのかしら?
そうだよそうだよ。
この世界はどうやらわたしが住んでいた地球の未来らしいと解ったんだ。

一番大事なのは、『お話婆さん』が、過去から人を呼び寄せる事が出来るとすれば、また帰してくれる事も出来るはずだと思う。
『お話婆さん』にはそんな力まではないとしたら?
ひょっとしてわたしは『お話婆さん』に呼ばれたのではなくて、たまたま時間の裂け目に迷い込んだだけだとしたら?

いやいやそんな事はない。
あるはずないよね。
だって、かかしの加橋君と、ブリキの木こりの小野田課長はわたしがここに来るだいぶ前から来ていたと言う。
偶然迷い込んだのじゃなくて、呼ばれたと思うのが正しいような気がする。

見ていると地上の風景が変わりだした。
物語の舞台だった場所がどこまでも続く廃墟の街になった。
そして次第に街には建物が復活して行くのが見えた。

その時急に視界が遮られ、風の音がしなくなったと思うとわたし達はセグライアンとオズボーンの宇宙船にいた。
「転送完了」
セグライアンは言いながらにっこりと笑った。
「俺たちは今、この宇宙船ごと過去への時間の流れに乗ってるぜ。オズボーンが上空にいる間にいろいろ調べたようだ」
オズボーンが操縦席から振りむいた。
「『お話婆さん』が巨大遊園地のマスターコンピューターだったと言うのは話したよな。ゲストを物語の主人公に仕立て上げて楽しませると言うのが、いわば『お話婆さん』の本能だったわけだ。その目的のために暴走を始めたのさ」
『お話婆さん』は世界中のコンピューターネットワークを乗っ取り、都市機能を崩壊させ、滅亡状態にまで追い込んだ。
そしてこの星を物語のための惑星に作り替えた。
いわば、『物語惑星』だな。
物語を物語るためだけの星だ。
一時、滅亡状態になったこの星の住人たちは数が極端に減った。
沢山の物語の舞台を用意して行くにつれて役者たちが不足し始めたんだろうな。
また、同じ役者たちばかりでは『お話婆さん』はマンネリを感じ出したんだろう。
「それで僕たちが連れてこられたと言う事か?」
加橋君が言った。
その時にわたしは二人と一匹がまだわたしにしがみついているのに気がついた。
「いつまでそうやってるつもり!?」
二人を振り払い、とげクマは背負い投げ!
「だからと言って、時間を超えてまで人を呼び寄せるなんて身勝手な婆さんだよね」
わたしがそう言うと、とげクマがうなずきながら言った。
「まったくね。時を超えるし、空間も超えて宇宙人まで呼び込んじゃってな」
「そうだよね。それにあんたはいったいどういう存在?元々いなかったあんたまで実体化しちゃったのも『お話婆さん』の力なのかな~」
「俺だけは遥香の妄想力の創造物かもしれないぜ。なんとなくそんな気がするだけだけどな」
宇宙船の窓から外を見ると街の様子がどんどん変化していた。
未来的なデザインの建物が減って行き、見なれた街にどんど近づいて行くんだ。

「この宇宙船て、時間も超えられるの?」
オズボーンが答えた。
「それは無理だ」
どうやら時間を遡っているのは、わたしを元いた場所に返すために『お話婆さん』の力が働いているらしい。
「その時間の流れに宇宙船が乗っているだけのようだ」
「さて、そろそろぶちかますか?」
セグライアンが言った。
「ぶちかますですって?」
「そうさ、このままだと地球の将来は、あの通りの『お話婆さん』に支配された世界だ。今この時代にはそれほど大きな力を持っていない『お話婆さん』の原型がいる。それをぶっ壊そうと言うのさ」
操縦席のモニター画面に巨大遊園地のお城が大きく映っていた。
「あのお城の地下に『お話婆さん』は腰を据えている」
セグライアンは鋭い爪がのびた指でお城を示した。
「いまのうちにぶち壊しておくのがいいと思うがね?」
「ターゲット補足」
オズボーンが言った。
「夜のお客がいない時間を狙って発射するぞ」
いまは数分で一日が過ぎているらしい。

「さあ、婆さん御馳走だよ」
そう言うとセグライアンは毛むくじゃらの手でボタンを押した。
モニター画面に崩壊するお城が映っていた。
音は聞こえない。
煙に包まれながら足元から崩れ落ちて行った。
その時宇宙船が大きく揺れ、照明が消えて真っ暗になってしまった。
加速度で体が動かない。
宇宙船は落ちている!
「婆さん。あんたの力を見くびっていたかもな」
暗闇の中でセグライアンの声が聞こえた。
「婆さんの最後っ屁だなこりゃ」
オズボーンの声だ。
そして物凄い音がする中、むちゃくちゃに体がもてあそばれ、気が遠くなった。




            暗闇




暗闇の中でわたしは色んな電子音を聞いていた。




まぶたの上から眩しい光を感じた。
目を開けるとわたしは横になって宇宙船の天井を見上げていた。

「おう。気がついたな遥香」
上から覗き込んだのはセグライアンの毛むくじゃらの顔だった。
野獣顔にちょっとビビった。
「今、宇宙船の調整をしている所だ。ほぼ正常航行が可能になったぜ」
オズボーンが言った。

外へ出ると夜だった。
広い草原の上に宇宙船は着陸していた。
いや、草原に大きな穴が空いているのでそこに墜落したらしい。
「この宇宙船は何か大きな衝撃を受けると、宇宙船内の時間が一瞬停止する様に設計されてるので、みんな無事だったのさ。めり込んだ穴からこいつを引き出してきれいにしていたんだ」

あたりを見回すと、どこまでも草原だ。
「まさか、ここは、アメリカのカンザスの草原じゃないでしょうね?」
「まさかね。後ろを見てみろよ」
セグライアンが指差す方には遠く電車が見えた。
わたしがここへ来るのに乗ってきた電車に間違いなかった。
「やった!」
「われわれのミサイルは『お話婆さん』にかなりダメージを与えたはずだ。もうダメ出しの心配はないさ」
「やっと神田須田町に帰れるのね」
「まあ、大丈夫だと思うが」
「セグライアンたら、何そのあやふやな言い方~」
「俺たちがあの電車とやらを上空からコントロールして帰してやるから、安心しな」
オズボーンが言った。
「この宇宙船のAIは『お話婆さん』を全て分析して記録している。つまり『お話婆さん』に出来ることはほぼ出来るんだ」
「『お話婆さん』は強大な力を持っていたが、しょせん井の中の蛙だったのさ。俺たちにかかれば隙だらけのネットワークに過ぎなかったんだな」

「それじゃあな」
「元気でな、お嬢さん」
わたしは二人の宇宙人と言うか異星人に手を振った。
手を振りながら後ろ向きに歩いていると背中が誰かにぶつかった。
かかしの衣装とメイクを落とした加橋君だ。
そして小野田元課長ととげクマもいる。

わたしは噴き出しそうになった。
みんなの事をすっかり忘れてたからだ。
草原に敷かれたレールの上に停まっている電車の所まで歩いて来て振り返ると、宇宙船は夜空をいくつかの光になって上昇している所だった。

『お話婆さん』の力を手に入れた異星人は、わたし達を元の時代に帰してくれると言う。
それが終わると元の時代に戻り、更にワープ航法を駆使して何百光年も彼方の宇宙に帰って行くんだ。
そう思うと急に胸が苦しくなった。

ライオンとオズの大魔王。
「セグライア~ン!オズボ~ン!」
わたしは手を振った。
むこうから見えなくてもいい。
思い切り手を振り続けた。
涙がこぼれて宇宙船の光が滲んだ。

「おい。その涙でぐしゃぐしゃの顔が宇宙船のモニターいっぱいに映ってるぜ」
すぐ耳元でセグライアンの声が聞こえた。
「早く電車に乗れ。それとも『ダメ出し』の要領で、おしりを蹴飛ばしてやろうか?」
「ばか~!あんたたちってデリカシーがないのね」

プラットホームがないので電車に乗る時にとげクマを踏み台替わりにした。
席に座った。
元同僚の加橋君。
元上司の小野田元課長。
そしてわたしの三人に加えて、座席に座っているのはとげクマだ。
思いっきり奇妙な組み合わせだよね。
これから元の世界に帰れると言うのに彼がいるだけで、それが信じられない。
そういえば、セグライアンだったっけ、言ってたよね。
とげクマは『お話婆さん』がわたしの記憶から作りだした創造物じゃなくて、純粋にわたしの妄想の産物じゃないかって。

じゃあ、元の世界に帰ってもこいつは付いて来る?
それはそれでちょっと困る。
とげクマを見ながら考えていると電車が動き出した。
その時はもう窓の外には夜の草原はなく、トンネルの闇が見えているだけだった。

「あら?この電車って、来た線路を引き返しているわ」
「そんな馬鹿な」
加橋君が言った。
「それじゃあ他の電車とぶつかっちゃうじゃん」

その時にまた、わたしの頭の中で、進行方向の反転が起きた。
ここへ来る時に感じた、あの方向感覚が混乱する不思議な感じだった。
電車の走る音が急に小さくなった。
トンネルを抜けたんだ。
すると窓の外はさっきまで夜だったのが嘘のように、きれいな青空の風景だった。
そして、電車はいつのまにか、複線の反対側のレールを走っているんだと解った。
いつのまに?
Uターンした訳でもないのになぜかわたしがやってきた方をちゃんと目指しているんだと確信していた。



18 快速電車



車内のドアが開いて数人の女の子の笑い声が聞こえた。
通学の女子高生が通路を歩いて来て通り過ぎた。
三つほど向こうの座席に座るとたわいのないおしゃべりを始めた。
電車が駅に停まると、プラットホームで待っていた人たちが乗り込んできた。
車内は騒がしくなり、そしてどんどんわたし達は現実感を取り戻していた。
小野田課長が不安そうに言った。
「私達は元いた世界というか、元いた時間にちゃんと帰れるんだろうか?」
加橋君も言う。
「そうですよね。あの異星人たちってなんかいい加減だったし」
「でも、ほぼ帰ってきてる感じだよ」
わたしは外の風景を見ながらそう答えた。
自然の風景の中を走っていた電車の窓からの景色はだんだん都会のそれになって来ていた。
見覚えのある灰色の街だ。

ふと、気になった。
さっきから、とげクマが話をしていない。
向かいに座っているとげクマのひざをたたいた。
「ねえ。どうして黙ってるの?」
反応がない。
立ち上がって肩をゆすると、とても軽かった。
もう普通の単なる、でかいぬいぐるみでしかなかった。
「とげくま!あんた…」
大きな声を出したので、さっきの女子高生や、乗客たちがこっちを見ている。

なんだか悲しかった。
異星人たちとの何百光年も隔たりを持つ別れ。
とげクマとの、こんな形の別れ。

「さよならも何にも言わずにさ…」
ふと、自分があの『お話婆さん』の支配する物語の惑星に懐かしさを感じているのに気がついた。
この地球が遠い未来にたどり着く可能性の一つだった『物語惑星』だ。

それはもう遠くなり、現実がどんどん近くなってくる。
電車は学校帰りの学生たちでにぎやかになり、もう進行方向の反転は起こらず、きちんと一つずつ駅に停まり、どんどん現実に向かって走り続けた。

ただ一つ、このとげクマのぬいぐるみだけが違和感あり過ぎなんだよね。
わたしはそうやって自分の会社がある街の駅に帰ってきた。
時間はもう退社時刻を過ぎていたので、そのまま地下鉄に乗り換えて自分の家まで帰ることにした。

加橋君と小野田元課長とは「さよなら」の一言だけで別れた。
たぶん三人とも不安だったんだと思う。
あまりにも不思議な世界から、余りにも現実的なこの街に帰って来た。
ここに自分たちの居場所はあるんだろうか?
前と同じように暮らしていけるんだろうか?

そんな不安を抱えてた。
三人ともね。

わたしはでかいとげクマを抱えて、人にじろじろ見られながら人ごみの中を歩いた。
ちっとも恥ずかしくはなかった。

とげクマが、ただのぬいぐるみになっちゃったことが悲しくてしょうがなかったんだよ。
ラッシュの地下鉄の座席にわたしは横にとげクマを座らせていた。
前に立っている男の人が文句を言った。
「ぬいぐるみは網棚に上げれば?」
わたしはそいつを睨んだ。
涙が止まらないわたしの顔を見てそいつは目をそむけた。
地下鉄の走る音を聞きながらいろいろ考えていた。
わたしは勝手に会社の通帳でお金を引き出してしまった。
何であんな事が抵抗なく出来たのか自分でも解らなかったんだ。

何十万円も引き出し、服をひと揃いと高級バッグ
そんなものを買ってしまったなんて。

そのときわたしは気がついた。
そうなんだ、きっと。
その時にはもう『お話婆さん』に引き寄せられていたんだ。
遥か遠くから『お話婆さん』に、とげクマと一緒に呼ばれていたんだ。
わたしはずっと肩からかけていたクロエのショルダーバッグを膝の上に置いた。
中を探してみると、わずかの着替えとピンクと黒のバイカラーのサンダルが入っているだけだった。

サンダル?
わたしはじぶんの足元を見た。
わたしはまだあの悪い魔女が履いていた赤い靴のままだった。
薄汚れていてとても魔法の靴だとは思えない。
そりゃそうだね。
物語惑星での魔法は『お話婆さん』の力によるリアルタイムCGだったんだから。
他には何もない。
確かにここに入れたはずの会社の通帳がなくなっている。
使い込んじゃった上に通帳までなくしちゃうなんて。
こんなことで明日、のこのこと会社に顔を出してもいいんだろうか?
でも、どうなろうととりあえず行かなくちゃ。



19 帰宅

一人暮らしの部屋に帰ってきた。
出掛ける前と何の変わりもないようだった。
ソファーにとげクマを座らせて、その足を枕にして横になると、すぐに眠ってしまった。





スマホの目覚ましが鳴った。

なぜかすっきりと目覚めた。
シャワーを浴びて支度をして、部屋を出る。

「あ、そうだ。今日もお弁当を持ってないよ、わたし」
不思議な世界へ行くきっかけが、そもそもお弁当を作らなかったことからなのを思い出した。
街を歩き、ラッシュの地下鉄に揺られ、会社へ向かっている間、ずっと違和感を感じていた。
何かが違うような、違わないような。

駅に張られたポスターや、ビルのお店のショーウインドウ。
何かがずっと気になっていた。
それが解ったのは会社のドアを抜けて、受付の前を通る時だった。
机の上にその日の日付を書いたプレートがある。
それは受付の係の人が毎日数字を入れ替える事になっている。
その月日は丁度、わたしが旅立ったあの日だった。
そして、月日は同じでも年が1年前になっていたんだ。
「これってどういう事?」
茫然と受付カウンターの前でそのカレンダーを見ながら立ち尽くしてしまった。
後ろから声を掛けられた。
「おはよ。何やってるんだ?遥香」
振り返ると、加橋君だった。
「あ、かかかか…」
「僕の名前、思い出せないのか?かかしじゃなくて?」
「あ、そうか。1年前なら加橋君はまだ会社にいたんだね」
「あの宇宙人たち、ちょっといい加減な仕事をしたのかな」
「加橋君も覚えてるんだね、『物語惑星』のこと」
「あんまり言わない方がいいぜ」

同じエレベーターで仕事場がある階まで上がった。
ドアを開けると1年前と、どこか少し違うわたしの働いていたオフィスがあった。
そして奥の机に座っているのは小野田課長だった。
わたしはその机の前まで走って行った。
「小野田課長!」
課長はわたしを笑顔で見上げた。
「おはようございます。課長!」
深々と頭を下げた。
「これからもよろしくな」
小野田課長は前の気弱なあの人とはどこか違っていた。
「末長く、定年まで頑張るよ。何しろオズの大魔王に毛の生えた心臓をもらったからね」
そう言いながら目くばせをした。

加橋君は自分の席に座りながら言った。
「今日からは仕事が出来そうだぞ。脳味噌が新しくなった気分だし」
わたしは更衣室の自分のロッカーを開いた。
あの日、ゴミ箱に捨てたはずの事務服がちゃんとかかっていた。
着替えて、自分の席に向かいながら考えた。
きょうのお昼休みに外へ食べに出ることになるでしょ。
そしてまたあのイタリアンのお店に入ったとする。
そうするとまた不思議な力が働きだして、どこか遥か遠くへ旅立つことになるんじゃないかと。
もうごめんだよね。
『お話婆さん』が本当に滅んでしまったのか、それはあの異星人たちが言ってただけなので絶対確かなことだとは言えないような気がする。
それにあの宇宙船のAI(人工知能)は『お話婆さん』をすべて分析してしまったと言う。
と言うことはセグライアン達がその気になれば『お話婆さん』がやった事をもう一度はじめることが出来るんじゃないんだろうか?
冗談半分にでもさ。
何かそこらへんが不安なんだよね。
あの二人の顔を思い出すとさ。
とりあえず今日のお昼休みはどこかの定食屋さんにでも入ることにしよう。
そしてとげクマを思い出した。
存在しなかったはずのとげクマが現れ、動いてしゃべり、一緒に過ごし、そして今はただのぬいぐるみになっている。
いやいやぬいぐるみその物が存在しなかったんだから、ただのぬいぐるじゃないし。
今度また同じようなことが起きるとすればきっかけはとげクマ。
何だかそんな気がするんだ。
そして、起きてほしくない、とは言い切れない。

部屋のドアを開いた。
「よう、遥香。おかえり~」
とげクマがそう言いそうな格好でソファーに座っていた。

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おわり





20014年地球の日常 [携帯で写真]

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「2001年宇宙の旅」の、このタブレットがやっとわが現実になった。
未来はなかなかやってこない気がするね。

キャプチャ.JPG
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戯曲「スタア」初演時の小冊子 [小説関連]

高井信さんのブログの記事『映画「スタア」』を読んで、そう言えば!と、この「スタア」の舞台を見に行ったのを思い出しました。
そして、その時に劇場で手に入れた小冊子があった事も。

しばしあちこち探し回りました。
ありました。
写真はすべてクリックで拡大)

スタア.jpg

そうです。
筒井康隆さんの戯曲、「スタア」を初演当時、(1975年)はるばる東京まで見に行ったのでした。
劇団「昴」の公演で、「三百人劇場」と言うところでした。
東京都文京区本駒込の、白山通りから少し入ったところにあったと言うことですが、今はもう閉館しているとか。
この小冊子は「現代演劇協会機関紙―59号」となっています。
表紙をめくると見開きに広告が。

IMGP0185.JPG

なんと、黒柳徹子さんはさておいて、デビュー間もない大竹しのぶさんのかわいらしいこと。
好きでしたねー。

IMGP0187.JPG

「スタッフ」「キャスト」のページです。
音楽山下洋輔さんがやってらっしゃいますね。
そして、このキャストの中に、北村総一郎、久米明、稲垣昭三、吉水慶と言う名前が見えます。
この4人の方々は、ラジオ番組「ショートショートファイブ」で、僕の作品を朗読していただいた方々なんですね。

IMGP0189.JPG

顔写真。
北村総一郎さんは、なんと今では想像がつかない二枚目だったんですね。

IMGP0190.JPG

そして、筒井康隆さんと劇作家飯沢匡さんとの対談があります。
これによると、三百人劇場に先だって、『「スタア」は神戸のSF大会で試験済みでしょう』と言う言葉が。
そうだったのか。
神戸のSF大会には僕も行ったのですが、すっかり忘れていました。
そう言えばそうだったなと、じわじわ思い出しています。
記憶があいまいなのは、SF大会では舞台が遠かったのもあるのでしょうか。
三百人劇場では最前列で見ましたからね。

IMGP0193.JPG


IMGP0192.JPG

舞台の写真も載っています。
下の写真の左はし、北村総一郎さんが若い。

青い傘  [朗読]

こえ部で朗読していただきました。




わたしはずっと電話がかかってくるのを待っていた。
雨が降り続く中、雨宿りもせず公園のベンチに座っていたのでもうずぶぬれになっていた。
ポケットに入れた携帯が壊れても知らないからね。
この携帯、防水じゃないんだから。
こっちからかけなくても、傘があるかどうか心配して電話をかけて来ないあんたが悪いんだからね。

雨が急に止んだ。
同時にあたりが青くなった。
青い傘をさしかける彼の笑顔があった。

扉が開いた (ツイッター小説朗読) [朗読]

こえ部で朗読していただきました。





扉が開いた


扉が開いた。
僕が開けと思うとそれは開く。

男が死んだ。
僕が死なせようと思えばどんなに強い男だって死ぬ事になる。

世界が滅びる。
僕がそういう物語を作れば世界さえ滅びるのだ。

君が泣いた。
君が僕から去って行った。
もう二度と会えなかった。
僕の中の君の思い出は、どうにも書き変えようがなかった。

猫を数える [朗読]

ショートショート「猫を数える」を浴衣さんに[こえ部]で朗読していただきました。


「猫を数える」


僕は毎日、なかなか眠れない。かといって薬なんかに頼るのも嫌だ。
それで羊の数を数えることにした。
最初はそんなのまるで漫画じゃんと思っていたのだけれど、やってみるとこれがなかなかいい感じだ。
眠る前に猫のミミに水と餌を用意して、スリッパをそろえて脱ぎ、ベッドに入り、目を閉じて、周りが一面牧草の、なだらかな丘だと想像する。そしてたくさんの羊たちも。
その羊が僕のベッドの上を飛び越していく。
羊が一匹。羊が二匹。羊が三匹……
いつも50匹まで数えないうちに僕は眠りに落ちている。

ところが最近、だんだんこの方法も効き目がなくなってきた。
羊の数は増える一方で、羊がベッドを飛び越す間隔がバラバラになったり、ヤギが混ざっていたり、羊を犬が追いかけて来たりで気が散ってしまうのだ。
とても眠れない。
とうとう本格的な不眠症になってしまった。
ベッドに入って目を閉じても、もう一面の牧草地を想像できなかった。
羊は一匹もやってこなかった。
それでも何とか目を閉じて眠ろうと努力をする毎日だった。

ある日、目を閉じているはずなのに僕の寝室が見えていた。
そしてなんと、ベッドの上を猫のミミが飛び越したのだ、規則正しく何度も何度も。
僕はその数を数えた。
ミミが一匹。ミミが二匹。ミミが三匹……
100匹をいくらか過ぎた頃だろうか。いつの間にか眠っていた。翌朝、久しぶりに爽快な朝を迎えられた。
こうやって毎晩、だんだん数える数が減って行けばいいのだけれど。
ベッドから降りると、足元にミミが寝ていた。危なく踏んでしまいそうになった。それなのにミミは動かなかった。
ミミは死んでいたのだ。
そうだったのだ。ミミは昨日の夜、僕の想像ではなく、本当にベッドを飛び越していたんだ。眠れない僕のために。
100回以上続けて力いっぱいベッドを飛び越し続け、そして疲れ果てて死んでしまったのだ。
ミミの死に顔は安らかだった。
ずっと餌をもらっていたお礼ですよと言っているのかもしれない。


おわり
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ツイッターのプロフィール画像変更 [コミスタで遊ぼう]

ツイプロフGIF.gif


ツイッターのプロフィール画像のGIFアニメを更新しました。
クリスマスバージョンから、大雪バージョンへ。

なお、GIFアニメをプロフィール画像にするにはツイッターの設定画面からでは出来ません。
「新ついっぷる」の設定画面からすると出来ますよ。
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北海道旅行 [携帯で写真]

「まりん組・図書係」から写真をこちらに移動しました。

紅葉はどうよ?.jpg

紅葉はどうよ?」2012-10-30 20:34

明日から旅行に行ってきます。
こんな感じに紅葉してたらいいんですけどねー
予報ではちょっとお天気が悪そう。
でもまあ仕事から離れるだけでも楽しみです。

携帯で何度か投稿するかもしれません。



神戸空港なう.jpg

神戸空港なう」2012-10-31 07:36

神戸空港から新千歳空港まで2時間足らずです。



道央道を移動中.jpg

「道央道を移動中」2012-10-31 11:28

名寄市へ向かっています。パーキングエリアの紅葉がきれいです。もちろん道路の両側もね。紅葉にどんぴしゃ間に合ってラッキーでした。



層雲峡のホテル.jpg

「層雲峡のホテル」2012-10-31 18:36

和室3部屋に坪庭付き。二人だけではぜいたく過ぎ!



黒岳ロープウェイ駅なう.jpg

「黒岳ロープウェイ駅なう」2012-11-01 08:56

ガスがかかって景色が見えないものの、雨が降らないのがめっけもの。



大雪山旭岳なう.jpg

「大雪山旭岳なう」2012-11-01 13:07

ラッキー!奇跡的に晴れました。
僕らが到着する頃に晴れはじめて上がった頃に晴れ、下りて来た頃には全く見えなくなりました。



トマムリゾート.jpg

「トマムリゾート2012-11-02 08:40

昨晩はトマムリゾートホテルに泊まりました。
本日は雨。
昼過ぎから曇りの予報ですけどね。



札幌市内通過中.jpg

札幌市内通過中」2012-11-02 11:35

これから定山渓温泉に向かいます。
たぶん。



豊平狭温泉でした.jpg

「定山渓温泉ではなく豊平狭温泉でした」2012-11-02 13:23

温泉に入って、インド人シェフが作るナンカレーを食べました。
あーと、インド人ではなくネパール人だそうです。



登別 地獄谷.jpg

登別 地獄谷」2012-11-02 16:57

登別の地獄谷という所に来ています。
今夜は登別温泉のホテルに泊まります。



有珠山なう.jpg

「有珠山なう」2012-11-03 10:27

有珠山ロープウェイで上がって来ました。
こう言うビューポイントに来ると何故か雲が途切れて青空になります。



ニセコから札幌へ.jpg

「ニセコから札幌へ」2012-11-03 16:34

中山峠を越えてニセコから札幌へ向かっています。
外はすごい霧。



すすきのなう.jpg

「すすきのなう」2012-11-03 18:00

ホテル到着。



札幌時計台なう.jpg

「札幌時計台なう」2012-11-04 09:33

時計台通過。
アリオ札幌とか札幌ビール園とか、行きます。



新千歳空港なう.jpg

「新千歳空港なう」2012-11-04 12:32

そう言うわけで、今から帰ります。
また来るからね、北海道

コスモス畑なう [携帯で写真]

F1000311.jpg
コスモスまつり会場周辺のコスモス畑。ちょっと霧が出ているけれどもいい天気になりそうです。
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